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資料保存 〜未来へつながる保存の技術〜

 埼玉県立図書館では、県民の財産である資料を、将来に渡って利用できるよう、資料保存に取り組んでいます。
 資料保存の基本的な知識と埼玉県立図書館において実施している補修技術をご紹介します。

 “本は劣化する”
 では、本を長持ちさせるためにはどうすればよいでしょうか?
 劣化の原因を知り予防するとともに、適切な手当てをすることで、劣化のスピードを緩やかにすることができます。
 主な劣化の原因と日頃のケア、修理の基本や材料・道具などの保存の技術についてみてみましょう。

劣化原因を知る

日常の取扱いによる主な劣化原因

取り出し方《無理に引き出す》
 背表紙に指をひっかけて取り出そうとすると、背表紙が壊れます。背表紙は引き出すためのものではありません。
劣化の原因の写真1
もどし方《無理に押し込む》
 棚に戻すとき無理に押し込むと、ゆがみ、折れ、シワ、やぶれの原因になります。
劣化の原因の写真2
置き方《不安定に置く》
 棚や机上に不安定に置いたり積んだりすると、本の形がゆがむ原因になります。
劣化の原因の写真3
運び方《手元から落とす》
 強固に作られた本は、衝撃を与えると壊れます。本を運ぶ時は一度にたくさん持たず、落とさないように注意しましょう。
劣化の原因の写真4
めくり方《乱暴にページをめくる》
 紙は破れやすいため優しく取り扱いましょう。
劣化の原因の写真5
コピーの取り方《ノドを押しつける》
 コピー機にノドを押しつけて複写すると、背が割れ、ページが取れるなどして壊れます。過度な力は構造を破壊します。
劣化の原因の写真6
雨&水《水に濡らす》
 水分は、紙の天敵です。適切な処置をしても完全には元に戻りません。
劣化の原因の写真7
汚す《食べかす,汚れた手,書き込み》
 いずれも本を傷めます。
劣化の原因の写真8

間違った修理による劣化の原因 “強力な材料は構造のバランスを壊す”

セロハンテープの使用

 一度貼るとはがしにくく、時間の経過により、劣化し変色したり固くパリパリになり、はがれる上に粘着層が残ります。
 本の修理には、セロハンテープを使用しません。

強力すぎる材料の使用

 強力な接着剤は、ぬった部分は丈夫でも、強度の差ができ、いずれ他の部分まで壊します。
 やり直しができないため、再修理が困難になります。

環境や本の構造による主な劣化原因

紫外線(日光・蛍光灯)

 日光や一般的な蛍光灯には、紫外線が含まれています。リグニンを特に多く含むパルプを使用している紙は、光にさらされると紫外線などの影響をうけ、黄色く変色してしまいます。
 本を置くときは、直射日光があたる場所をなるべくさけ、できるだけこまめな消灯をこころがけるとよいです。

カビの発生

 『IFLA図書館資料の予防的保存対策の原則』(日本図書館協会 2003)によれば、「空気中やものの上には、カビの原因となる菌の胞子が常に存在し、条件が整えば場所を問わず生育する。一般に、湿気があって(相対湿度65%以上)、暗く、空気の流れが悪いところがカビの生育にとって理想的な環境である。」とあります。
 カビを発生させないようにするためには、十分に空気を循環させること、温湿度管理、カビの栄養源である埃が溜まらないよう日頃から清掃することが不可欠です。
※カビの発生や除去については、国立国会図書館「資料の保存」「カビが発生した資料をクリーニングする」のページをご参照ください。

酸性紙の劣化

 酸性紙は1850年代以降に、製紙の過程でにじみ止めの定着材として硫酸アルミニウムを使用した紙です。紙自体に含まれる酸によって紙の繊維がもろくなり数十年でボロボロになり、この現象を酸性劣化といいます。図書館にある近代の紙資料の多くが酸性紙を使っているため、多くの図書館で酸性紙劣化資料への対応が課題になっています。
 ここ10年では、出版物の90%以上に中性紙が使われるようになっています。(参考『防ぐ技術・治す技術−紙資料保存マニュアル−』(日本図書館協会 2005))

日頃からできる本のケア

本をいためない正しい取り出し方

【ポイント】 本の背に指を引っかけずに取り出します。
(1) 両サイドの本の背を軽く押します。
本の取り出し方の写真1
(2) 取り出したい本の真ん中を持ち、取り出します。
本の取り出し方の写真2
(3) 両サイドの本を押せない程ゆとりがなくきつい場合は、天小口に指の腹をあて取り出します。
本の取り出し方の写真3

ドライクリーニング

【ポイント】 水分を使わずに、刷毛やマイクロファイバー製のクロスで、埃や汚れをとる効果的な方法です。
 ※作業にあたっては、室内換気しマスクを装着しましょう。
(1) 汚れが入り込まないように、片手で小口をしっかり持ちます。
ドライクリーニングの写真1
(2) 刷毛で埃をはらいます。きれいな方→汚れている方の順(地→前→天)
ドライクリーニングの写真2
(3) 表紙側・裏表紙側ともに見返しのノドを、中央から外に向かって刷毛ではらいます。
ドライクリーニングの写真3
(4) 全体をマイクロファイバー製の布で拭きます。
※化学ぞうきんは本を傷めるため使用してはいけません。 ドライクリーニングの写真4

ページの折れ・シワの手当て

【ポイント】 ごく少量の水気をあたえてから重しをのせて乾燥させることで、ページを平らに戻します。
 ※弱った紙や写真集などの塗工紙にはできません。
(1) 折れ・シワを取りたいページの下にコピー用紙など白紙の吸水紙を挟みます。 (2) 水で濡らして固く絞った布巾で水気をあたえ、折れやシワを伸ばします。
ページの折れ・シワの手当ての写真1
(3) 新しい白紙を上下面に挟み、本を締め板で挟みます。
ページの折れ・シワの手当ての写真2
(4) 5kg程度の重しをのせて乾燥させると平らに戻ります。
ページの折れ・シワの手当ての写真3

 ※折れ・シワだけでなく折れ癖・巻き癖、引きつれなどの傷みを治し、平らにする方法です。
  水気を与えたまま放置すると膨張してゆがむため、しっかり乾燥させます。

水濡れ(雨&水)の手当て

【ポイント】 水濡れ本の手当てはスピード勝負。白紙などの吸水紙を挟み水分を取ることで、元の状態に近づけます。
 ※濡れたまま放置するとカビの発生、ゆがみ、紙のはりつき等、傷みが進行します。
(1) 1ページごとに白紙を挟み水気を取ります。
水濡れ(雨&水)の手当ての写真1
(2) 水を吸ったら白紙を取り換えます。さわってもほとんど湿り気を感じなくなるまで繰り返します。
水濡れ(雨&水)の手当ての写真2
(3) 本を締め板で挟み、5kg程度の重しをのせてしっかり乾燥させます。
水濡れ(雨&水)の手当ての写真3
※大量に水濡れの手当てをする時
 (1)の作業の前に、本を立てて、風通しのよいところである程度乾燥させます。
水濡れ(雨&水)の手当ての写真4

資料保存の基礎

基本的な考え方

 図書館では、保存と利用を対立するものと捉えるのではなく、利用をより長期にわたり保障する保存活動と捉えます。
  → 「長期」をどう捉えるかは各図書館の性格により違ってきます。

収集・保存方針

 何を収集し、どのようにいつまで残すのか、図書館の特性に応じて、方針を明確化します。
  → 修理するかどうか判断する際の指標となります。

保存(修理)計画

 個別に修理するのではなく、資料群(刊行年別・郷土資料など)で優先度をつけ段階的・計画的に修理します。

予防と手当

 「治療」よりも「予防」が大切です。
  → 壊れた本に対処するだけでなく、劣化の原因を取り除くことこそ重要です。できることから始めることが大切です。

劣化の原因

原因予防対策
保存環境温度・湿度・紫外線・ホコリ・虫・カビ・災害空調・環境測定・調湿紙・こまめな消灯・紫外線防止蛍光灯・ブラインド・紫外線防止フィルム・清掃・点検・防虫剤・害虫駆除・災害対策マニュアル
内的な要因酸性紙・紙の寿命・針金綴じ・構造上の問題(無線綴・横目・大きさ)脱酸(少量・大量)・中性紙の利用・綴じ直し(糸・ステンレス針)
外的な要因製本・複写・棚からの出し入れ・頻繁な移動
・乱暴な利用等取扱い
・不適切な修理
複写機の改善・複写の制限・書架整理
・利用者・職員への教育

資料保存の5つの方法

1 防ぐ
2 点検する
3 取り替える
4 治す
5 捨てる

修理の技術

修理の原則

 資料の原形(オリジナル)を尊重
 安全な材料を使う
 可逆性(元に戻せる修理)

○ 本の構造を理解し、機能の回復を目指します。
○ 修理は本に負担がかかる行為です。利用のための必要最小限の修理を心がけます。
○ 固く、強固に治す必要はありません。軟らかく仕上げることが長持ちの秘訣です。
○ 利用するかぎり、何度も壊れる可能性があります。やり直しができる修理を行います。
○ 誤った修理は、次の破損につながります。常に次に修理する時のことを考えて修理方法を選択します。
大事なことは、何を(優先順位)、どのように(方法)治すのかです。

基本的な材料

化学的に安定している安全な材料(= 酸性ではなく中性の素材)を使います。材料は、和紙でんぷん糊が基本です。

修理に使う紙

和紙(楮紙)厚さは4種類(厚・中厚・薄・極薄)程度あるといいでしょう。
中性紙 【用途】見返しや背表紙修理用のクータに使います。
 【ポイント】
 ・和紙はしなやかで丈夫。繊維がながく洋紙にもなじみやすい。
 ・和紙も中性紙も紙の目に注意(タテ目が基本)。

修理に使う糊

でんぷん糊【用途】ページなど本体の修理
化学糊(木工用接着剤)【用途】背・表紙と本体の合体や表紙貼り
混合糊(でんぷん糊2〜3+化学糊1)【用途】厚みのある紙やアート紙など

 【ポイント】
 ・3種類の糊を用途にあわせて使い分けます。
 ・必要な濃さに水で薄めて使用します。
 ・薄く(濃さ)、薄く(厚さ)が柔らかく仕上げるコツです。
 ※糊を原液そのままで使うことはほとんどありません。

糊の性質の違い
でんぷん糊化学糊(木工用接着剤)
・化学的に安定している
・水ではがすことができやり直し可能
・軟らかく仕上がる
・接着力が弱い
・乾くのに時間がかかる
・酸性
・乾くときれいにはがせない
・硬くなる
・接着力が強い
・速乾性がある
その他の材料

・裏打ちキャラコ(または寒冷紗)
・糸(麻糸・木綿糸・絹糸など)

修理に使う道具

 特別なものを調達するのではなく、身近にあるもので工夫できます。
平筆(油絵用など)こしの強い筆がよいです。大きさが数種あると修理箇所で使い分けできます。
カッターナイフ刃はこまめに折ります。切れない刃は失敗の原因になります。
金定規(30cm以上)カッターを当てて切る作業が多いため、なるべく傷つきにくい金定規を使います。
カッターマットA3以上で目盛があると採寸に便利です。
重し漬け物石(5kgぐらい)が丁度良いです(仕上がりの要)
締め板(厚さ1p以上)2枚セット版画用の板、合板など
目打ち穴あけ・折り筋・寸法をはかるなど用途で使います。
水に濡らし固く絞った布巾修理箇所の余分な糊をとったり、適度な湿り気を与えます。
針(製本針、ふとん針)糸で綴じ治す時に使用します。
編み棒(4号)背表紙の修理の際などに使用します。
紙やすり(#240)ページ修理の仕上げや、劣化し固着した化学糊を除去する時などに使用します。

修理の実際

 (1)基本をおさえ (2)正しい方法を知って (3)経験を重ねる
 ○ あせらずに時間をかける
 ○ 軟らかい仕上がりのために、糊はうすく
 ○ 紙をはったら、よく押さえる
 ○ 糊がはみでたら、ふく
 ○ 一ヶ所作業したら、乾くまで待って、次の工程へ
 ○ 形を整え締め板で挟み、乾くまで重し(プレス)で押さえる

配布チラシ・パンフレット

きほんのき

 修理の材料や道具、基本的な修理方法について、イラスト付きで分かりやすくまとめたチラシです!(PDF形式)

その1 本のなりたち
きほんのき1
その2 とりあつかい
きほんのき2
その3 道具のこと
きほんのき3
その4 材料のこと
きほんのき4
その5 やぶれをなおす
きほんのき5
その6 かたちをなおす
きほんのき6
その7 ページがとれたら
きほんのき7
その8 ページがとれたら2
きほんのき8
その9 表紙がはずれたら
きほんのき9
その10 ステップアップ
きほんのき10
プラス1 平綴じ
きほんのきプラス1

リンク・ステッチ

リンク・ステッチ

 糸綴じ本の糸が切れたときの修理の技術、一本の糸で折丁をかがる「リンク・ステッチ」をご紹介します。(PDF形式)






資料保存や補修技術についてもっと詳しく知りたいとき

参考文献

『防ぐ技術・治す技術−紙資料保存マニュアル』(「防ぐ技術・治す技術−紙資料保存マニュアル−」編集ワーキンググループ編 日本図書館協会 2005)
 ※資料保存の基礎知識から、劣化を防ぐ対策、具体的な治し方までを解説。

ウェブサイト情報

東京都立図書館 資料保存のページ

http://www.library.metro.tokyo.jp/about_us/syusyu_hozon/siryou_hozon/tabid/2104/Default.aspx
 資料保全室の紹介、保存・修理についてのQ&A、修理・製本に使う道具類の紹介、様々な対策の紹介、補修などのテキストを公開。

国立国会図書館 資料の保存のページ

http://ndl.go.jp/jp/aboutus/preservation/index.html
 取組・方針・環境管理・調査のほか、具体的手当についても紹介。
 「所蔵資料の保存」のページでは、温湿度管理・虫菌害等の対策などの環境管理、カビが発生したときの資料のクリーニングなども紹介されています。

日本図書館協会(資料保存委員会)

http://www.jla.or.jp/committees/hozon/tabid/96/Default.aspx
 セミナー・見学会・研修のお知らせ、図書館大会の報告、展示パネルの貸出、委員会の刊行物、資料保存に関する情報、リンク集など。

館内研修

 埼玉県立図書館では、職員の保存技術向上のため、館内研修を実施しています。
 ・ 資料補修技術研修(初級研修・年1回,中級研修・年2回)
 ・ 資料保存研修会(年1回)

県政出前講座「図書館なんでも活用講座」のご案内

 県立図書館で実施している長く保存するための本の修理方法について出前講座を承っています。学校活動や公民館の講座、図書館の職員研修などにぜひご活用ください。(無料)

 実習をともなう修理講座については、以下の条件をご確認のうえお申込みください。 ※平成29年度の受付は終了しました。

 ※業務の都合により、日程を調整させていただく場合があります。
 ※後日、打ち合わせ等の電話をさせていただきますので、お待ちください。

【問い合わせ・申込窓口】
 埼玉県立熊谷図書館 企画担当
  住所 〒360-0014 熊谷市箱田5-6-1
  電話:048-523-6291 FAX:048-523-6468

 県政出前講座については、埼玉県のウェブサイト「県政出前講座」もあわせてご覧ください。

埼玉県立図書館 図書資料保存委員会

 埼玉県立図書館では、図書資料保存委員会をつくり、資料保存に取り組んでいます。
 ・ 資料保存の取組
 ・ 職員向け館内研修
 ・ 出前講座による普及活動


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[ このページに関するお問い合わせ先 ]
埼玉県立図書館 図書資料保存委員会(久喜図書館) TEL:0480-21-2659 FAX:0480-21-2791 E-mail:kuki-sizen@lib.pref.saitama.jp