調べものに役立つ資料案内
昔の百科事典で調べる― たとえば「お団子」の起源 ―
平安時代の『倭名類聚鈔』をはじめとして、わが国でもさまざまな百科事典が出版されてきました。今回は、そういった「昔の百科事典」を使って、ものごとの起源や変遷を調べる方法をご紹介します。
たとえば、私たちが今でも美味しくいただく「お団子」について、昔の百科事典を紐解いてみましょう。現代の百科事典や事物起源の事典を引くのとはまた違い、その時代にリアルタイムで書かれた記録や、様々な古典籍から引用した記述を楽しむことができます。
『倭名類聚鈔(わみょうるいじゅうしょう)』(成立年:承平5〔935〕年以前)
請求記号:R031/ミ(熊谷・久喜)
著者の源順は博覧強記、詩歌の名手としても名高く、『後撰和歌集』の選者でもあります。わが国初の百科事典で、漢語に出典名・注・和名を記してあります。『和名抄』『順和名』などとも呼ばれます。
この資料には「団子」という言葉は見あたりませんが「タイシ」([タイ]は食偏に追 [シ]は子)・「歓喜団」というのが団子と同様のものです。中国伝来の「八種唐菓子」の一つであることがわかります。また「コウ」(食偏に羔)という米の粉を蒸したものの記述もありますが、これは、いわば団子の素材といったものです。
『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』(正徳2〔1712〕年)
請求記号:R031.2/ワ(熊谷)
和漢古今の事柄に考証を加え図説したものです。中国、明の『三才図会』(万暦35〔1607〕年序)に倣って編集したものです。
ここでは「餌(ダンゴ)」という項目に「俗に団子という」と書かれ、串団子の図も見られます。餡を包んだり、黄粉をまぶしたり、形もさまざまです。
『類聚名物考(るいじゅめいぶつこう)』(成立年代未詳)
請求記号:R031/Y42(熊谷)
山岡浚明(明阿弥 1780年没)編。明治時代に索引付きで翻刻され、広く使われました。また、これをもとに『古今要覧稿』(R031.2/ヤ)も編纂されています。
「団子」は、陸奥では「だんす」と言われたようです。
『嬉遊笑覧(きゆうしょうらん)』(文政13〔1830〕年)
請求記号:R031.2/キ(熊谷・久喜)
本来は随筆ですが、言葉の意味を事項別に分け典拠を明らかにしているため、百科事典の役割を果たしています。特に江戸時代の風俗を知る上では欠かせない資料です。
「団喜」「タイシ」のほかに、「みたらし団子」についての記述もみられます。「団喜」は餡入りで、「みたらし団子」は京都下鴨神社ゆかりの串団子であることがわかります。
『古名録(こめいろく)』(天保14〔1843〕年)
請求記号:081/ニ「日本古典全集」所収(熊谷)
『万葉集』から天正・慶正年間までの国書に見られる古名を集め、考証を行った資料です。分野が広く、引用文も豊富で、利用価値の高い事典です。
「紹巴富士見記」から、10個の団子を連ねた宇津山の「十団子」が紹介されています。
『古事類苑(こじるいえん)』(明治29〔1896〕〜大正3〔1914〕年)
請求記号:R031.2/コ(熊谷)
わが国唯一の官撰の百科全書です。慶応3〔1867〕年以前の日本の政治・文化・社会・自然などに関する事項を網羅的に収録しています。
「甲子夜話」からは「切団子」の作り方が引用されていますし、「沙石集」のアリとダニの問答からは、団子の形の変遷も窺われます。
『広文庫(こうぶんこ)』(大正5〔1916〕〜7〔1918〕年)
請求記号:R031.2/モ(熊谷)R031.2/コ(久喜)
歴史・文学等の研究に有意義と思われる約5万項目を50音順に配列し、その内容に関係した和漢書の抄録を掲載しています。同じ著者による文献案内『群書索引』と対をなすものです。
室町時代に成立した「新撰犬筑波集」には、“花よりもだんご”というおなじみの言葉を織り込んだ連歌があります。
『日本百科大辞典(にほんひゃっかだいじてん)』(明治41〔1908〕〜大正8〔1919〕年)
請求記号:R031/ニ(熊谷)R031/N77(浦和)
三省堂が発行した日本初の本格的百科事典で、カラー図版入りです。第1巻には大隈重信の序文があります。編纂開始の明治31年から約20年をかけて完成しました。
東京向島名物、言問団子の名前が、在原業平の歌“いざ言問はん都鳥”に由来するものであることもわかります。