調べものに役立つ資料案内 2006年2月
江戸の地理を調べる ― たとえば「鬼平」を訪ねる ―
日本最古の地図は、飛鳥時代のものと言われていますが、一般向けの木版地図が出版・販売されるようになったのは、徳川家康によって天下が統一されてから後のことです。これらの地図には、木版画に手彩色を施され、美術的にもすぐれたものがあります。また、町並みや街道、名所などが詳細に描かれ、江戸の様子を今も鮮やかに伝えてくれます。
熊谷図書館では、複製・復刻された古地図や古地図集成などを所蔵しています。今回は、そういった古地図を紹介がてら、池波正太郎の小説「鬼平犯科帳」でおなじみの長谷川平蔵ゆかりの地を訪ねてみましょう。
『江戸切絵図集成 第1〜6巻』(中央公論社 1981-1984)
請求記号:D291.3/エ(2階閉架) *資料の所蔵館はすべて熊谷です
〈切絵図〉とは、地域別に区切って作られた地図のことです。 第6巻には、人名・社祠・寺院・地名他の索引も付いています。
【長谷川平蔵役宅】 小説では役宅を清水御門外(千代田区九段南)に設定しています。著者の池波正太郎によると、切絵図に〈御用屋敷〉とあるのを利用したとのことです。
『古板江戸圖集成 第1〜5巻』(中央公論美術出版 2000-2002)
請求記号:D291.36/コハ(2階資料室)
室町時代から江戸時代後期まで、様々な年代・種類の地図を幅広く収載しています。
【長谷川平蔵自邸】 長谷川平蔵が火付盗賊改方長官の職にあったのは、天明7(1787)年から寛政7(1795)年です。自邸は目白坂上(文京区目白台)という設定で、長男の辰蔵が留守をあずかっています。
『江戸‐東京市街地図集成 1657(明暦3)〜1895(明冶28)年』(柏書房 1988)
請求記号:R291/エ(3階資料室)
地域ごとに年代の異なる7枚の地図で編集され、同じ場所の変遷を知るのに便利です。
【本所三ツ目屋敷】 鬼平が〈本所の銕〉の通り名で鳴らした頃の旧邸は、本所花町(墨田区緑)です。史実の長谷川邸は、この近くの都営新宿線菊川駅あたりにありましたが、後に平蔵の孫が売りに出し、遠山金四郎が下屋敷として買い取りました。
『日本地図選集』(人文社)
請求記号:R291/ニ(3階資料室)
「元禄・文政・天保・明治 江戸大絵図集成」「嘉永慶応江戸切絵図」「伊能忠敬江戸府内実測図」など、原色・原寸で忠実に再現された美しい地図を堪能できます。
【御先手組・組屋敷】 鬼平配下の与力や同心の居宅は、四ツ谷坂町(新宿区坂町)にあります。
『江戸城下変遷絵図集 第1〜20,別1・2巻』(原書房 1985-1988)
請求記号:R291.36/エ(2階閉架)
幕府普請奉行編『御府内往還其外沿革図書』の新編複製で、延宝から文久年間まで200年の変遷を示します。〈御府内〉とは、江戸城御曲輪内より四里四方の範囲です。
【人足寄場】 鬼平が、老中松平定信に建議して建設された無宿人の更生施設〈人足寄場〉は、石川島(中央区佃)にあります。鬼平は初回の責任者も務めました。
『復元・江戸情報地図』(朝日新聞社 1994)
請求記号:R291.36/フ(2階資料室)
安政3年(1856)年の江戸とその周辺を現代東京の地図と重ね合わせて示す地図帳です。簡単な解説も記載されています。
【茶屋「笹や」】 男まさりのお熊ばあさんの茶屋は、本所弥勒寺門前(墨田区千歳)にあり、密偵たちの連絡(つなぎ)場所になっています。
『江戸東京大地図』(平凡社 1993)
請求記号:R291.36/エ(2階資料室)
江戸の切絵図・明治の測量図・現代の地図・最近の航空写真の4種類で構成されます。
【軍鶏鍋屋「五鉄」】 鬼平が気心の知れた者と酒を酌み交わす店です。本所二ツ目(墨田区緑)にあります。
『江戸東京重ね地図』(エーピーピーカンパニー 2001)
請求記号:R213.61/エト(2階カウンター)
安政3(1856)年実測復元地図のCD-ROMです。江戸時代と現代の地図を重ね合わせて見ることができます。また、大名屋敷や鬼平ゆかりの地名などの検索も可能です。
【おまさの住居】 密偵〈おまさ〉は、下谷坂本裏町(台東区根岸)の与助長屋に住んでいたことがあります。
さて、江戸の町歩きはいかがでしたか。たまにはこんな風に、地図の上で旅をするのも楽しいものです。ただし「鬼平犯科帳」は小説なので、史実と異なる場合もあることをご承知おきください。
図書館にはこの他にも様々な地図や、古地図の目録、地図を楽しむための本などもあります。また、インターネットで古地図を見られるWebサイトもありますので、参考までにご紹介しておきます。