修理の技術
修理の原則
- 資料の原形(オリジナル)を尊重
- 安全な材料を使う
- 可逆性(元に戻せる修理)
- 本の構造を理解し、機能の回復を目指します。
- 修理は本に負担がかかる行為です。利用のための必要最小限の修理を心がけます。
- 固く、強固に治す必要はありません。軟らかく仕上げることが長持ちの秘訣です。
- 利用するかぎり、何度も壊れる可能性があります。やり直しができる修理を行います。
- 誤った修理は、次の破損につながります。常に次に修理する時のことを考えて修理方法を選択します。
大事なことは、何を(優先順位)、どのように(方法)治すのかです。
基本的な材料
化学的に安定している安全な材料(= 酸性ではなく中性の素材)を使います。材料は、和紙とでんぷん糊が基本です。
修理に使う紙
和紙(楮紙)
厚さは4種類(厚・中厚・薄・極薄)程度あるといいでしょう。
中性紙
【用途】見返しや背表紙修理用のクータに使います。
【ポイント】
- 和紙はしなやかで丈夫。繊維がながく洋紙にもなじみやすい。
- 和紙も中性紙も紙の目に注意(タテ目が基本)。
修理に使う糊
でんぷん糊【用途】
ページなど本体の修理
化学糊(木工用接着剤)
【用途】背・表紙と本体の合体や表紙貼り
混合糊(でんぷん糊2~3+化学糊1)
【用途】厚みのある紙やアート紙など
【ポイント】
- 3種類の糊を用途にあわせて使い分けます。
- 必要な濃さに水で薄めて使用します。
- 薄く(濃さ)、薄く(厚さ)が柔らかく仕上げるコツです。
注:糊を原液そのままで使うことはほとんどありません。
糊の性質の違い
でんぷん糊 | 化学糊(木工用接着剤) |
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・化学的に安定している ・水ではがすことができやり直し可能 ・軟らかく仕上がる ・接着力が弱い ・乾くのに時間がかかる |
・酸性 ・乾くときれいにはがせない ・硬くなる ・接着力が強い ・速乾性がある |
その他の材料
・裏打ちキャラコ(または寒冷紗)
・糸(麻糸・木綿糸・絹糸など)
修理に使う道具
特別なものを調達するのではなく、身近にあるもので工夫できます。
平筆(油絵用など) | こしの強い筆がよいです。大きさが数種あると修理箇所で使い分けできます。 |
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カッターナイフ | 刃はこまめに折ります。切れない刃は失敗の原因になります。 |
金定規(30cm以上) | カッターを当てて切る作業が多いため、なるべく傷つきにくい金定規を使います。 |
カッターマット | A3以上で目盛があると採寸に便利です。 |
重し | 漬け物石(5kgぐらい)が丁度良いです(仕上がりの要) |
締め板(厚さ1cm以上)2枚セット | 版画用の板、合板など |
目打ち | 穴あけ・折り筋・寸法をはかるなど用途で使います。 |
水に濡らし固く絞った布巾 | 修理箇所の余分な糊をとったり、適度な湿り気を与えます。 |
針(製本針、ふとん針) | 糸で綴じ治す時に使用します。 |
編み棒(4号) | 背表紙の修理の際などに使用します。 |
紙やすり(#240) | ページ修理の仕上げや、劣化し固着した化学糊を除去する時などに使用します。 |
修理の実際
1. 基本をおさえ、2. 正しい方法を知って、3. 経験を重ねる
- あせらずに時間をかける
- 軟らかい仕上がりのために、糊はうすく
- 紙をはったら、よく押さえる
- 糊がはみでたら、ふく
- 一ヶ所作業したら、乾くまで待って、次の工程へ
- 形を整え締め板で挟み、乾くまで重し(プレス)で押さえる
配布チラシ・パンフレット
きほんのき
修理の材料や道具、基本的な修理方法について、イラスト付きで分かりやすくまとめたチラシです!(PDF形式)
その1 本のなりたち |
その2 とりあつかい |
その3 道具のこと |
その4 材料のこと |
その5 やぶれをなおす |
その6 かたちをなおす |
その7 ページがとれたら |
その8 ページがとれたら2 |
その9 表紙がはずれたら |
その10 ステップアップ |
プラス1 平綴じ |
リンク・ステッチ
糸綴じ本の糸が切れたときの修理の技術、一本の糸で折丁をかがる「リンク・ステッチ」をご紹介します。(PDF:818KB)