資料紹介
2025年7月4日
こんな本あります!ー久喜図書館の書棚からー
こんにちは。久喜図書館です。
このコーナーでは、所蔵する図書を図書館職員がご紹介します。
さて、今月は...
■No.1■
『わがまま老後のすすめ』 (和田秀樹/著 筑摩書房 1999)
<所蔵館:久喜図書館 請求記号:493.185/ワカ>
著者は、その豊富な臨床経験から老いについての常識に一石を投じ、高齢者には一般の医学常識は通用しない、健康を気にして神経質になるより、積極的に心によいことを楽しむ方が脳の老化(特に感情)を防ぎ、健康長寿になるという。
そして、精神分析学者コフートによる「自己心理学」の理論「自己愛(自分を受け入れること)」に着目し、「わがままな自分」「贅沢な自分」「人に依存してしまう自分」を受け入れることを提案する。
ギブアンドテイクの相互依存関係を築くことは、老後の生きる知恵であり、また、欧米のように高齢者がもっとお金を使って老後の人生を楽しめば、経済がより発展し、将来、日本も老後に夢の持てる社会に変わるだろうとエールを送る。
25年前の著作であるが全く色あせる事なく、「人生100年時代」を迎えた今こそ多くの人に読んでほしい一書である。
(紹介者:H・T)
■No.2■
『祈りの彫刻 リーメンシュナイダーを歩く 続』(福田 緑/著 丸善プラネット 2013)
<所蔵館:久喜図書館 請求記号:712.34/イノ >
リーメンシュナイダーは中世後期ゴシックの彫刻家である。15世紀末から16世紀前半に南ドイツの古都ヴュルツブルグで活躍し、多くの祭壇彫刻を残した。
本書は、小学校教員を早期退職した著者が各国の教会や美術館の作品を訪ね歩き、まとめた写真集であり、計5冊のシリーズのうち2冊目に当たる。
頁を繰ってみる。聖人たちは少し硬い表情で、何かこらえているように見える。手や指の動きは優美でしなやかだ。眼差しは鑑賞者と交わることはないが、見ているうちに、鑑賞者が自ら語り出すのを待っているように感じられてくる。本来こうした彫刻は、現地を訪れ、その光や空気を感じながら見るべきなのだろう。が、彫刻家の優れた精神性は、本書の各頁から力強く伝わってくる。
ティルマン・リーメンシュナイダー、マイスター。参事や市長も務めたが、後の農民戦争の際に農民側に立って投獄され、出所の6年後に亡くなった。澄んだ目をした人だったと思う。
(紹介者:蓮見 博)
■No.3■
『影裏』(沼田真佑/著 文藝春秋 2017)
<所蔵館:久喜図書館 請求記号:913.6/ヌマ>
出向先の岩手で過ごす今野。釣り好きな彼が心を許す職場の同僚、日浅との釣りが心を癒す何よりの時間だった。
その後日浅は退職し疎遠になった頃、東日本大震災に見舞われた。彼の安否が取れず、手がかりを求め実家を訪れた。
しかしそこで聞かされた話は、日浅の知らない一面を知る結果となった。
友情という甘い記憶と脆くも崩れてしまう悲しさを微妙に描き分けた作品。 第157回芥川賞受賞作
(紹介者:H・I)
それでは、次回もお楽しみに。
2025年6月15日
貸出文庫予約受付中!
こんにちは。
県立熊谷図書館の図書館協力担当です。
昨年10月にこちらの記事「「貸出文庫」を知っていますか?」で紹介した「貸出文庫」。
同じ本を最大20冊、集団読書用に最大2か月貸出しています。
県内で活動するグループであれば、電話一本、もしくはFax一枚で簡単に予約できます。
(※通常の県立図書館の本の予約とは異なります、ご了承ください)
県立図書館ではこの「貸出文庫」を、年2回新たに購入しています。
2025年3月までに、新たに購入したタイトルを紹介します!
【令和6年度第2回購入作品】
1.『風に立つ』 柚月裕子著 中央公論新社 2024.1
非行少年を一時預かりする「補導委託」を独断で始めた父親と、それに戸惑う息子の家族小説。
2.『成瀬は信じた道をいく』 宮島未奈著 新潮社 2024.1
我が道を突き進む主人公が失踪!?全5編の爽快な青春小説。
3.『佐渡絢爛』 赤神諒著 徳間書店 2024.3
元禄の世、すべて同じ能面が残されているという怪事件をめぐる歴史ミステリー。
4.『サンショウウオの四十九日』 朝比奈秋著 新潮社 2024.7
ひとつの体に、双子の姉妹。その父親は双子の兄の体に宿って生まれていた......自分と他人の境界とは。
5.『ツミデミック』 一穂ミチ著 光文社 2023.11
感染症が流行する世界での犯罪、がテーマのミステリー短編集。
6.『めざせ!ムショラン三ツ星』 黒栁桂子著 朝日新聞出版 2023.10
刑務所のご飯は「クサい飯」?受刑者と栄養士が作るお料理レシピ付きノンフィクション。
7.『続きと始まり』 柴崎友香著 集英社 2023.12
三人の登場人物たち、それぞれの「あの日」を振り返りながら進む日常を見つめる。
以上7作品です。
また、ベストセラーや近代文学、定番の児童書なども取り揃えております。
貸出文庫は目録をウェブサイトにて公開しておりますので、
本のタイトルや作者名で探すことができます。
予約方法や目録など詳しくは、下記バナーからご覧ください。
2025年5月24日
こんな本あります!―久喜図書館の書棚から―
こんにちは。久喜図書館です。
このコーナーでは、所蔵する図書を図書館職員がご紹介します。
さて、今月は...
■No.1■
『ひみつの王国 評伝石井桃子』 (尾崎真理子著 新潮社 2014)
<所蔵館:久喜図書館 請求記号:J910.268/イシ006>
石井桃子。その名を知らなくても翻訳書 「クマのプーさん」「ちいさいうさこちゃん」、編集に関わった「星の王子さま」「ドリトル先生」...数多ある縁(ゆかり)の本に触れずに育った大人がいるだろうか?
しかし明治40年生まれ平成20年に101歳で終えた石井の前半生は、子どもの本の世界を切り開いた後半生に比べあまり知られていない。高等女学校を卒業したら農家に嫁ぐのが当たり前の時代、女子大学に進学し「英語」を武器に職業を持つ女性として生きた100年には様々な顔がある。菊池寛との出会いを機に草創期の文藝春秋で編集の力を培った20代、菊池寛、吉野源三郎、太宰治、井伏鱒二等、人脈は昭和の出版史とも重なる。戦時下の混乱のなか宮城の農村ではじめた開墾生活の意外性。80代で書き上げた自伝的小説の原動力とは?
自己喧伝と無縁だった石井に晩年インタビューを許された著者が、親しい友人たちへの膨大な手紙を手掛かりに知られざる「ひみつの王国」にせまる初の評伝。
(紹介者:神原陽子)
■No.2■
『水族館の歴史』(ベアント・ブルンナー/著 山川純子/訳 白水社 2013)
<所蔵館:久喜図書館 請求記号:486.76/スイ >
水族館の始まりは、今から約170年前にも遡る。海の生物や深海の様子が現代ほど解明されていなかった当時、水槽で見る小さな海(アクアリウム)は、人々にとって未知の世界だった。本書は、海の生物を室内で飼育しようとした試みから、やがてアクアリウムが人々の関心の的となり、水族館という形に至るまでの歴史を丁寧に追った資料である。
水槽の中でどうやって海の生物が生きられる環境を維持するのか、どうやって遠い海から衝撃に弱い魚たちを運んでくるのか......世界中の人々の試行錯誤がやがて集結し、水族館として発展していく様子はとても興味深い。資料内で紹介される、海の生物や当時のアクアリウムが描かれた多種多様な絵も見応えがある。
水族館が好きな人もそうでない人も、新鮮な視点から楽しめる1冊となっている、ぜひ手に取ってみてほしい。
(紹介者:T・M)
■No.3■
『引き出しに夕方をしまっておいた』 (ハン・ガン/著 きむ・ふな、斎藤真理子/訳 クオン 2022)
<所蔵館:久喜図書館 請求記号:929.11/ハン>
2024年に著者がノーベル文学賞を受賞したことは記憶に新しい。本書は詩60篇が2人の共訳によって刊行されたものである。
収録された詩は、夜明けの静けさや夕方から夜になる時間に思い浮かぶ様々な感情が多く描かれているが、時には詩が難しく感じることもあるかもしれない。
巻末にある翻訳家対談を読むと韓国現代詩や著者について知ることができ、言葉を自分なりに捉えていいのだと安堵する。言葉が自分に染み込んでいく過程をじっくり味わうことで、自分なりに詩の解釈をすればよいのだと。
小説は読むけれど詩はあまり読まない人にもぜひ手に取ってほしい一冊。
(紹介者:A・M)
それでは、次回もお楽しみに。
2025年3月22日
こんな本あります!―久喜図書館の書棚から―
こんにちは。久喜図書館です。
このコーナーでは、所蔵する図書を図書館職員がご紹介します。
さて、今月は...
■No.1■
『タヌキ学入門』 (高槻成紀著 誠文堂新光社 2016)
<所蔵館:久喜図書館 請求記号:489.56/タヌ >
「タヌキに化かされる」という言葉がある。しかし現代人からすると、タヌキはなんとなくまぬけで怖いイメージがない。著者はタヌキと人間の距離が近く、農作物をタヌキに食われた時代の人間と、街に住み、タヌキとの距離が離れた現代人とでは、タヌキへの考え方が変化してきていると指摘している。
著者はタヌキの生態についても紹介しているが、それだけでない。人間がタヌキの行動に対してどのように想像力や妄想力を使って複数のイメージを持つ動物として認識するようになったのかを解説している。
タヌキの生態に詳しくなることはもちろんだが、動物のイメージというのは科学的ではなく、人間の感性によるものが大きいものだと改めて感じる一冊である。
(紹介者:T・O)
■No.2■
『ランプシェード』(松岡享子著 東京子ども図書館 2023)
<所蔵館:久喜図書館 請求記号:J019.5/ラン >
東京子ども図書館という施設をご存じだろうか。本書は同館の機関誌に掲載されていたエッセイをまとめたものである。著者は松岡享子。数多くの児童文学の創作や翻訳を手掛け、日本の子どもたちに読書の喜びを広めた立役者だ。
エッセイの内容は多岐にわたる。当初は本の書評や、子どもの読書にまつわる筆者の関心事について熱く語られている。やがて著者の身の回りの出来事が、ゆるやかに綴られるようになると、ありのままの人柄が一層色濃く浮かび上がり、ユーモアあふれる文章に親近感が湧いてくる。
(紹介者:A・Y)
■No.3■
『迷宮と迷路の文化史』 (W・H・マシューズ著 和泉雅人、宇沢美子訳 東京堂出版 2022)
<所蔵館:久喜図書館 請求記号:520.2/メイ>
本書は20世紀初頭、仕事の傍ら大英博物館に通った著者が、数多の文献やフィールドワークを通じて得た情報をまとめあげた迷宮研究の古典的名著である。
研究の発端は「誰が最初に迷路を作ったの?」という子供の素朴な疑問。そのため本書は、研究者ではなく一般読者を念頭に書かれている。エジプトにギリシャ、イギリス、イタリアなど各地の遺跡や庭園を巡る気分で、クレタ島の神話や羊飼いの古い慣習、信仰生活と関わる迷宮・迷路の謎に思いを馳せる。そんな魅惑的な旅に読者を誘ってくれる1冊。
(紹介者:自然科学・技術資料担当 M・M)
それでは、次回もお楽しみに。
2025年1月28日
こんな本あります!―久喜図書館の書棚から―
こんにちは。久喜図書館です。
このコーナーでは、所蔵する図書を図書館職員がご紹介します。
さて、今月は...
■No.1■
『スズメはなぜ人里が好きなのか』 (大田眞也著 弦書房 2010)
<所蔵館:久喜図書館 請求記号:488.99/スス >
近年、スズメを目にすることがめっきり少なくなった。この本は、子供の頃からスズメに関心を持ち続けてきた著者が、学校に勤務しながら実際に観察し続けたスズメの生態を写真とともにまとめたものである。スズメの目線を通して野生動物が生きていくことの厳しさが伝わってくる。内容は、スズメの民俗学的な考察にまで及び、著者のスズメ愛が強く感じられる。タイトルに対する答えは、読者それぞれがこの本を通して考えてみたい。
(紹介者:O・M)
■No.2■
『壊れても仏像 文化財修復のはなし』(飯泉太子宗著 白水社 2009)
<所蔵館:久喜図書館 請求記号:718.3/コワ >
仏像は面白い。素材の違い、現わされた仏のエピソード、持ち物や装飾、知れば知るほど仏像鑑賞の楽しみは倍増する。この本は仏像修復を生業とする著者が修復家ならではの視点で、仏像のあれこれや実際の修復についてわかりやすく語ってくれている。「造り方はガンプラと同じ」「ネズミと虫の仏像マンション」「乾燥しすぎはお肌の大敵」など、各文章に添えられたタイトル、自作のイラストも楽しい。類書のない必見の本である。
(紹介者:N・Y)
■No.3■
『石が書く』 (ロジェ・カイヨワ著 創元社 2022)
<所蔵館:久喜図書館 請求記号:755.3/イシ>
「嵐のなかの稲妻と叢雲」「氷結したサバト」「生まれつつある鳥」――これらは全て、著者が石の中に現れた風景を評した言葉だ。本書では、その断面に様々な画像を示す石を紹介している。ただし、単なる珍しい石の紹介には留まらない。著者は石に現れる「美」への感応から、普遍的な美の存在に論を展開する――と、このように書くと難解な本と思われるかもしれない。まずは、美麗な石の写真と詩的で豊かな文章を楽しめる本として、気軽に手に取ってみていただきたい。
(紹介者:A・Y)
それでは、次回もお楽しみに。