資料紹介
2025年1月28日
こんな本あります!―久喜図書館の書棚から―
こんにちは。久喜図書館です。
このコーナーでは、所蔵する図書を図書館職員がご紹介します。
さて、今月は...
■No.1■
『スズメはなぜ人里が好きなのか』 (大田眞也著 弦書房 2010)
<所蔵館:久喜図書館 請求記号:488.99/スス >
近年、スズメを目にすることがめっきり少なくなった。この本は、子供の頃からスズメに関心を持ち続けてきた著者が、学校に勤務しながら実際に観察し続けたスズメの生態を写真とともにまとめたものである。スズメの目線を通して野生動物が生きていくことの厳しさが伝わってくる。内容は、スズメの民俗学的な考察にまで及び、著者のスズメ愛が強く感じられる。タイトルに対する答えは、読者それぞれがこの本を通して考えてみたい。
(紹介者:O・M)
■No.2■
『壊れても仏像 文化財修復のはなし』(飯泉太子宗著 白水社 2009)
<所蔵館:久喜図書館 請求記号:718.3/コワ >
仏像は面白い。素材の違い、現わされた仏のエピソード、持ち物や装飾、知れば知るほど仏像鑑賞の楽しみは倍増する。この本は仏像修復を生業とする著者が修復家ならではの視点で、仏像のあれこれや実際の修復についてわかりやすく語ってくれている。「造り方はガンプラと同じ」「ネズミと虫の仏像マンション」「乾燥しすぎはお肌の大敵」など、各文章に添えられたタイトル、自作のイラストも楽しい。類書のない必見の本である。
(紹介者:N・Y)
■No.3■
『石が書く』 (ロジェ・カイヨワ著 創元社 2022)
<所蔵館:久喜図書館 請求記号:755.3/イシ>
「嵐のなかの稲妻と叢雲」「氷結したサバト」「生まれつつある鳥」――これらは全て、著者が石の中に現れた風景を評した言葉だ。本書では、その断面に様々な画像を示す石を紹介している。ただし、単なる珍しい石の紹介には留まらない。著者は石に現れる「美」への感応から、普遍的な美の存在に論を展開する――と、このように書くと難解な本と思われるかもしれない。まずは、美麗な石の写真と詩的で豊かな文章を楽しめる本として、気軽に手に取ってみていただきたい。
(紹介者:A・Y)
それでは、次回もお楽しみに。
2024年12月26日
こんな本あります!―久喜図書館の書棚から―
こんにちは。久喜図書館です。
このコーナーでは、所蔵する図書を図書館職員がご紹介します。
さて、今月は...
■No.1■
『どどいつ入門』 (中道風迅洞著 徳間書店 1986)
<所蔵館:久喜図書館 911.66/ナ >
「散切り頭を叩いてみれば文明開化の音がする」--こんなフレーズを、歴史の教科書で見たことがある人も多いのではないだろうか。この歌は七・七・七・五の二十六音の組み合わせで作られる都々逸(どどいつ)という詩の一つである。
本書は、都々逸の発祥から現代までの歴史、また関連する資料についてまとめられた、まさに書名どおり都々逸の入門書として最適な本である。
江戸時代、寄席芸人であった都々逸坊扇歌(どどいつぼうせんか)が大成したとされる都々逸は、寄席や座敷などで節をつけて歌われ、やがて大衆に文芸として広まった。名が知れた読み手がいる俳句や短歌と異なり、無名の民の作品が多いことも特徴である。著者が全国から収集し、作中で紹介される数多くの都々逸は、男女の恋愛や日常の風景を描いたもの、世相を反映したものまで様々である。
人々の生活や想いがうかがえる都々逸の世界に、ぜひ触れてみてはいかがだろうか。
(紹介者:T・M)
■No.2■
『秀吉を襲った大地震』(寒川旭著 平凡社 2010)
<所蔵館:久喜図書館 453.21/ヒテ>
天下統一を果たした豊臣秀吉だが、統一の前後、二度にわたり大地震に見舞われている。中部から近畿東部までの広範囲を襲った1586年の天正地震と京阪神地域を襲った1596年の伏見地震である。
本著は、10年という短期間に2度も起きた大地震に着目し、古文書の記録から読み取れる被害の大きさや人々の様子だけでなく、遺跡の発掘調査から得られた地震の痕跡も組み合わせ、戦国時代の終わりから天下統一に向かう激動の時代を読み解いている。
剛気な秀吉も大地震には敵わず、彼の築いた豪華絢爛な城や城下町は崩れてしまった。被害の大きさは各地の遺跡に残された液状化や地滑りのあとが物語っている。
日本で暮らす限り地震から逃れることはできない。被害を少なくするには、科学技術の進歩も重要だが、過去の地震から知識や教訓を得ることも大切である。まもなく能登半島地震から1年、阪神・淡路大震災から30年が経つ。400年前の地震から何を得られるか、ぜひ読んで確かめてほしい。
(紹介者: K・C)
■No.3■
『骨ものがたり 環境考古学研修室のお仕事』 (飛鳥資料館・埋蔵文化財センター環境考古学研究室執筆・編集 奈良文化財研修所飛鳥資料館 2019)
<所蔵館:久喜図書館 457.8/ホネ>
骨を研究する、と聞くとどんな仕事を思いつくだろうか。
本書は、遺跡と一緒に出土する動植物の骨や種などから、人々が時代ごとにどのように生きてきていたかを研究する、環境考古学研究所のお仕事を紹介した図録である。
調査時に持っていく仕事道具から細やかな調査作業の一つ一つまで、豊富な写真で丁寧に説明があり、まるで自分が研究所に社会科見学で訪れた気分になってくる一冊である。
(紹介者:T・F)
それでは、次回もお楽しみに。
2024年11月15日
100年前の長瀞観光案内~名勝及び天然記念物「長瀞」指定100周年~
「長瀞」は名勝及び天然記念物に指定されてから100周年を迎えます。
名勝及び天然記念物「長瀞」とは荒川沿いの旧親鼻橋付近から旧高砂橋付近に至る約4kmの区間をいい、「結晶片岩より成る峡谷、両岸の絶壁、岩畳は景勝、学術的には紅簾片岩を始めとする結晶片岩の露出多く、褶曲、断層等地質学的価値が高い」(『ながとろ風土記』p199 長瀞町教育委員会 1974)とされています。
1924(大正13)年12月9日に国の名勝及び天然記念物に指定されました。
そこで、今回は約100年前に発行された長瀞に関する所蔵資料を紹介します。
いずれも観光客向けに発行された案内で、眺めるだけで惹きつけられます。
■『秩父鉄道沿線名所図会』(秩父鉄道株式会社 秩父鉄道 1922)
白黒写真や彩色の絵図、名所案内がまとまった資料です。
案内の文章が美しく、旅情を掻き立てられます。
「秩父鉄道が吉田初三郎に依頼した観光ガイド用の鳥瞰図で、長瀞の観光開発や武甲山の石灰石採掘など沿線開発の様子が分かります。」
(『ひと・もの・はこぶ 秩父から/秩父へ』p20 埼玉県立川の博物館 2023)
■『長瀞鳥瞰図 ながとろ清遊案内』(青木清一 1925)
都会から長瀞に訪れる人への案内書です。奥書に「今回天然記念物として永久に保在させらるるに及んで一層推賛の價ある勝地となった」とあり、指定を契機に作製したことがわかります(『自然の博物館100年の軌跡』p39 埼玉県立自然の博物館 2020)
表面には近辺の旅館や料理屋などの情報、裏面には長瀞の商工業者の広告があります。
なお、こちらの資料は埼玉県立図書館デジタルライブラリーで公開されており、インターネット上で閲覧ができます。
■『秩父ながとろ遊園地図会』(秩父鉄道株式会社 秩父鉄道 [192-])
表に彩色の絵図、裏に「秩父風光遊覧手引」として観光案内が載っています。
「長瀞遊園地」は、「比較的廉価に宿泊できる旅館(養浩亭)、テニスコート、野球場や200mの直線競争場を備えた運動場などからなり、現在の運動公園の体をなしていました。」(『自然の博物館100年の軌跡』p28 埼玉県立自然の博物館 2020)
■『秩父長瀞地方地質遊覧案内』(神保小虎著 秩父鉄道 〔192-〕)
東京帝国大学教授理学博士による地質見学の案内です。
上武鉄道(現秩父鉄道)が金崎まで開通した明治44年9月以降、著者の神保氏は学生を連れて頻繁に秩父地域を訪れるようになったといいます。(『自然の博物館100年の軌跡』p18 埼玉県立自然の博物館 2020)
写真のほか、地質図や地形図が掲載されています。
現在も「長瀞」は有名ですが、100年ほど前の資料を見ても、当時から観光の目玉として注目されていたことがわかります。
『秩父鉄道五十年史』(p41 秩父鉄道 1950)や『秩父鉄道の100年』(p52 郷土出版社 1999)によると、秩父鉄道は長瀞が景勝地として知られる前から、旅客誘致のために宿などの施設を造ったといいます。そして大正13年に長瀞が名勝及び天然記念物に指定されると、多くの観光客が長瀞駅を利用するようになりました(『秩父鉄道の100年』p41 郷土出版社 1999)。その一環でたくさんの観光案内が発行されたのでしょう。
さて、秩父地域では10月下旬から11月下旬にかけては紅葉が見ごろだそうです。紹介資料1点目の『秩父鉄道沿線名所図会』では「秋深ふなれば懸崖に這ふ蔦紅葉霜に飽きて延々燃ゆるが如く美観名状すべらず」と、その見事さを称えています。秋の行楽に長瀞に足を運んでみるのも素敵ですね。
当館では、上記のような古い資料のほかにも、長瀞に関するさまざまな資料を所蔵しています。図書館のある熊谷と長瀞は秩父鉄道で行き来できますので、調べものや長瀞観光のついでに足を伸ばしてみてはいかがでしょうか。
余談ですが、埼玉県立自然の博物館で「名勝・天然記念物「長瀞」指定100周年記念」をテーマに、企画展「長瀞自然遊覧」(令和6年10月26日(土)から令和7年2月24日(月))開催しています。長瀞のことを知りたい方にはうってつけですね!
2024年11月14日
こんな本あります!―久喜図書館の書棚から―
こんにちは。久喜図書館です。
このコーナーでは、所蔵する図書を図書館職員がご紹介します。
さて、今月は...
■No.1■
『八月の御所グラウンド』 (万城目学著 文藝春秋 2023)
<所蔵館:久喜図書館 913.6/マキ030 >
万城目学(まきめまなぶ)が第170回直木三十五賞を受賞した青春小説。本には2作品が収められているが、どちらもストーリーがコミカルで読みやすく、登場人物が個性的で分かりやすい。「こういう人っているよな」と納得できる。そして、時折笑いを誘うセリフがあり、とにかく面白く読み進めることができる。
こんな風に読みやすい小説なのだが、絶対「ありえない事」が起きる。そして「ありえない事」が、ストーリーの展開に重要な要素となっている。京都が生んだ出会いと奇跡?こんな普通でないことを違和感なく書けるのが、万城目学の世界だ。
実は、表題作もよいが、もう一つ収録されている短編もよい。師走の都大路を走る女子高校生達が主人公なのだが、実に個々の感情描写がうまい。ちょっと感動してしまった。
ネットの文学のみでリアルな本にあまり関心のなかった若い人にぜひ読んでほしい。ただ、本に親しんできた高齢者などにとってもこれは面白い。何せ「ありえない事」が大いにノスタルジーなのだ。
みなさんも、「ありえない事」をぜひ確認してみませんか。
(紹介者:S・S)
■No.2■
『ギャンブル依存症』 (田中紀子著 KADOKAWA 2015)
<所蔵館:久喜図書館 493.74/キャ>
著名人の賭博スキャンダルがマスコミを騒がせている。莫大な借金額に驚くが、なぜ?という疑問に答えてくれる報道は目にしない。
実は日本は隠れたギャンブル大国。
賭博は違法にもかかわらず、パチンコ/競馬など公営競技/くじ等は例外とされ日常的にギャンブルに触れることができる。
「病的ギャンブラー」は成人全体の推定20人に1人。諸外国に比べ「衝撃的なほど多い」という。
依存症は脳の機能的な障害に至る病気。発症すれば意思や根性ではやめられず、正常な思考回路も働かなくなる。
家族や自身も依存症経験者で、支援組織を立ち上げている著者は、犯罪にまで至った具体的な事例から、動機、背景、回復への道筋などを解説。具体的で読みやすい入門書となっている。
日常に潜む恐ろしい落とし穴にはまらないため、誰もが知っておきたい情報である。緊急課題として社会全体で対策に取り組むべき、という提案にも深く頷ける。
(紹介者:M・K)
■No.3■
『庭仕事の真髄』 (スー・スチュアート・スミス著 和田佐規子訳 築地書館 2021)
<所蔵館:久喜図書館 494.78/ニワ >
ガーデニングが心を病んだ人たちの回復に寄与するという、「園芸療法」の効果について書かれた本である。
筆者はイギリスの精神科医、心理療法士であり、貧困地区のコミュニティ、刑務所、病院、戦争中の塹壕などにおいて庭仕事が人の心に変化をもたらす実例を数多く挙げる。著者自身の庭づくりの体験からも、庭仕事のどのような部分が心の救いになったのかを具体的に示している。
ガーデニングが心を癒してくれる要因として、土や植物の感触を楽しむことや、花の美しさ・香り、育てた作物の味を楽しむといった、ガーデニングを通して五感に受ける刺激、試行錯誤して種から花や実を育てるという感動、屋外で行う作業でありながら誰とも関わらず一人で没頭できること、反対に庭づくりを通して他人と協力して作業ができること、などと様々な理由を挙げている。
園芸療法について知るだけでなく、ガーデニングの魅力を再発見するという意味でも楽しむことができる一冊である。
(紹介者:K・M)
それでは、次回もお楽しみに。
2024年10月2日
こんな本あります!―久喜図書館の書棚から―
こんにちは。久喜図書館です。
このコーナーでは、所蔵する図書を図書館職員がご紹介します。
さて、今月は...
■No.1■
『カラヴァッジョの秘密』
(コスタンティーノ・ドラッツィオ著 上野真弓訳 河出書房新社 2017)
<所蔵館:久喜図書館 723.37/カラ>
表紙にご注目いただきたい。暗い背景から「聖マタイと天使」がぼうっと浮かび上がっている。17世紀に活躍したミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョの作品である。ローマの聖堂で実際にこの絵と対峙した時、強い光と影のコントラストと確かな写実性にその場に釘付けになった。
本書は、画家カラヴァッジョの生涯を、イタリア人美術キュレーターが豊富な歴史考証を元に、美術史初心者にもやさしい語り口で記している。
「喧嘩っ早く荒っぽい」が、画壇の批判にさらされようとストイックに新たな画法を追求したカラヴァッジョ。「バロックの幕を開けた」といわれる彼の足跡を、多くの作品写真とともに辿ってみよう。
(紹介者:S・I)
■No.2■
『小笠原諸島の混合言語の歴史と構造』
(ダニエル・ロング著 ひつじ書房 2018)
<所蔵館:久喜図書館 838/オカ>
日本語方言を専門とするアメリカ人研究者が日本語で著した大作。小笠原諸島に最初に住みついたのはポリネシア・ミクロネシア系と欧米系の人たちだという。ここにルーツを持つ島民が仲間内で使用する、日本語に英語を混ぜた独自の言語を研究したもの。またそれだけではなく、時代背景として小笠原諸島のあまり知られていない歴史や文化の変容、日本語方言との共通性と相違、入植者の家族史などが壮大なスパンで丹念に書かれているので、あたかも上質な歴史ドキュメンタリーのごとく読むことができる。
読了後、私には謎が一つ残った。それは・・・。
(紹介者:橋の下のトロル)
■No.3■
『イルカみたいに生きてみよう』
(小原田泰久著 大和書房 1997)
<所蔵館:久喜図書館 489.6/イル>
海を優雅に泳いだり水族館で華麗にショーを行ったりするイルカの姿を見て、イルカのように生きたいと思ったことがある人はどれぐらいいるだろうか。のんびりくつろぐ猫や無邪気に走り回る犬と比べると、イルカの生き方をイメージするのは難しい。
本書では、オーストラリアやバハマでイルカと出会い「無理せず、楽しく、いつもニコニコと」をモットーに生きる著者が、イルカが教えてくれた楽しく生きる方法を紹介している。悲しい気分の乗り越え方やどうしたら前向きに生きられるのか、イルカのようにのんびり楽に生きるには、といったことがイルカの生き方をとおして語られる。表紙や挿絵にいるイルカたちも可愛らしく、読む人の心を癒してくれる。
人間の世界に疲れイルカみたいに生きてみようと思ったときに、読んでみるかとこの本を手に取ってほしい。イルカはいるかと問いかけなくても、あなたの心にきっと寄り添ってくれるだろう。
(紹介者:小柳 直士)
それでは、次回もお楽しみに。