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資料紹介

2023年11月7日

こんな本あります!―久喜図書館の書棚から―

こんにちは。久喜図書館です。
このコーナーでは、所蔵する図書を図書館職員がご紹介します。

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さて、今月は...

■No.1■

『極楽征夷大将軍

(垣根涼介著 文藝春秋 2023)

<所蔵館:久喜図書館 913.6/カキ005 >

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太平記とは異なる新たな足利尊氏を提示した、長大な歴史小説。逆に、後醍醐天皇・楠木正成・新田義貞等の誰もが知っている英雄を従来通りに描いているため、新解釈に説得力を持たせ安心感を与えている。実は戦べたな高師直と弟の足利直義の活躍と苦悩を軸に、室町幕府ができるまでを資料に基づき実に実に丹念に描いている。

この小説は、戦記物として不可能なことを成し遂げていくことを描くことで痛快性や娯楽性を求めているのではなく、人の助け合いや心の繋がりを大きなテーマにしていると考えるが、どうだろうか。

一気に読むにはやや長すぎるので、じっくり腰を据えて取り組む1冊。かっこいい足利尊氏を期待する方にはお勧めできない。(第169回直木三十五賞受賞作品)

(紹介者:バリアフリー読書推進担当)

■No.2■

『かわいい仏像 たのしい地獄絵 -素朴の造形-』

(須藤弘敏、矢島新著 PIE International 2015)

<所蔵館:久喜図書館 718.3/カワ>

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仏像といえば、まず思い浮かべるのは奈良の大仏や阿修羅像だろう。だが、この本では、そういった誰もが知っている仏像をとりあげていない。仏師の手によるものではないが、東北の地で、今なお人々から慕われている民間仏を紹介している。ポケットにでも入れておきたくなってしまうような素朴でかわいい仏像だ。常に飢えや病気の苦しみにさらされていた農民たちにとって、なぜ、やさしくて、かわいいのかを説く。

後半では、死への恐怖、とりわけ地獄へ落ちるかもしれないと思っていた庶民に身近な地獄絵を紹介している。あまり恐ろしさを感じない地獄絵も民間の画工によるものだ。

写真はすべてカラーである。埋もれた美を掘り起こしたい、一方で、これらを大事に守り続けたいという著者の心が伝わる1冊である。

(紹介者:情報・地域協力担当 M.S)

■No.3■

『わたしはこうして執事になった

(ロジーナ・ハリソン著 新井潤美監修 新井雅代訳 白水社 2016)

<所蔵館:久喜図書館 591.0233/ワタ>

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日本でも近年、アニメや漫画、ドラマなどで認知されるようになった執事。19世紀のヴィクトリア朝時代のイギリスで多く活躍していたが、時代とともに下火となり、現代ではあまりなじみのない職業である。本書では、20世紀初頭から1960年代までの間に、実際に使用人として貴族のお屋敷で働いていた5人の男性それぞれの体験談がリアルに描かれている。

執事となった者は、雑用係や下男、従僕などを経て、その地位を掴んだが、誇りを持って仕事を行っていたということが窺える。従うだけではなく、時として意見を言うこともある主人とのやり取りが面白く、またお互いの信頼関係を感じることができる。

当時のイギリスの使用人たちだけではなく、貴族の内実をも垣間見ることができる貴重で興味深い資料だろう。

(紹介者:芸術・文学資料担当 S)


それでは、次回もお楽しみに。

2023年10月7日

こんな本あります!―久喜図書館の書棚から―

こんにちは。久喜図書館です。
このコーナーでは、所蔵する図書を図書館職員がご紹介します。

書架

さて、今月は...

■No.1■

『虫から死亡推定時刻はわかるのか? 法昆虫学の話

(三枝聖著 築地書館 2018)

<所蔵館:久喜図書館 請求記号:498.9/ムシ>

虫から死亡推定時刻はわかるのか?

本書は、不幸にして人間より先に昆虫に発見された死者(孤独死や遺棄された殺人事件の被害者)について、死体に定住する昆虫(主にハエの幼虫)からいつ亡くなったかを推定する自称「法昆虫学者」によるお仕事解説書である。
最後の生存確認情報や解剖所見では判別できない場合にお呼びがかかり、第一発見者である昆虫から証言を聞き取るのが「法昆虫学者」の仕事らしい。法医解剖室で昆虫を採集し、標本を作り、死体発見現場の環境や天候、解剖室への移動時間を鑑みつつ種類を特定、成長段階や個体数から死後経過時間を推定していく。生命活動を終えてから土に還るまでの観察実験も興味深い。

虫のことを見るのも考えるのも嫌という方にはおすすめはしないが、人間も他の生物と同じように自然の循環のなかにいる、という当然のことに思いいたる。
一般人とていつなんどき法昆虫学にお世話になるかわからない。このニッチな世界をのぞいてみてほしい。

(紹介者:神原陽子)

■No.2■

『ささやく恋人、りきむレポーター 口の中の文化(もっと知りたい!日本語)

(定延利之著 岩波書店 2005)

<所蔵館:久喜図書館 請求記号:811.1/ササ>

ささやく恋人、りきむレポーター

美味しい料理に、つい唸る。誰かにお願いメールをする時に、土下座の絵文字を使う。そんな日本語話者にとってはごく普通の光景に、他言語文化の視点からスポットライトを当てて、新たな側面を見せてくれる一冊。
本書では、言語学者である著者が、私たちが会話をする上で日常的に・無意識のうちに行っている事象をつぶさに観察し、音声コミュニケーションにおける気持ちと音声の結びつきを分析している。
「えっと」「あの」といったつなぎ言葉(フィラー)や、つっかえ、イントネーションとアクセントの変化、りきみ、空気すすりといった行為には、存在理由と意味があった。
豊富な事例紹介と軽快な語り口に、つい読む姿勢が前のめりになる。

(紹介者:S・O)

■No.3■

『呼べばくる亀 亀、心理学に出会う

(中村陽吉著 誠信書房 1991)

<所蔵館:久喜図書館 請求記号:487.9/ヨ>

呼べばくる亀

飼い犬は名前を呼ばれると駆け寄ってくるが、亀の場合はどうだろうか。本書は、ある心理学者と「カメちゃん」ことペットの亀の交流や心理学的実験の記録である。
カメちゃんは飼い主を探して部屋を移動する。餌付けしたわけではないのにただ甘えたくて飼い主に歩み寄り、握手するように手を差し出すこともある。
なぜ亀とこのような信頼関係を築くことができたのか?本書を読むと、その秘訣は心理学者ならではの観察力にあることがわかる。時に客観的に、時に愛情たっぷりに、亀の心理や行動を分析したユーモラスな一冊。

(紹介者:M・M)


それでは、次回もお楽しみに。

2023年8月8日

こんな本あります!―久喜図書館の書棚から―

こんにちは。久喜図書館です。
このコーナーでは、所蔵する図書を図書館職員がご紹介します。

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さて、今月は...

■No.1■

『じっくり見たい『源氏物語絵巻』

(佐野みどり著 小学館 2000)

<所蔵館:久喜図書館 請求記号:721.2/シツ>

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「国宝源氏物語絵巻」と言えば日本の四大絵巻の一つで、その成立は十二世紀中ごろと推定される。本書は現存する「国宝源氏物語絵巻」を実物大図版を用いて解説している。源氏物語の登場人物やあらすじについても紹介されており、源氏物語になじみのない読者でも安心して読み進めることができ
国宝源氏物語絵巻はただ物語を絵画化しているのではなく、絵画がもたらす効果によって登場人物の心情を描き出している。そこに本作品の面白さがある。作者の源氏物語への深い理解と共感が生んだ最高傑作を、あなたも堪能してみてはいかがだろうか

(紹介者:S・O)

■No.2■

『宮沢賢治はなぜ教科書に掲載され続けるのか

(構 大樹著 大修館書店 2019)

<所蔵館:久喜図書館 請求記号:910.268/ミヤ003>

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やまなし」、「永訣の朝」、「雨ニモ負ケズ」など、私たちが教科書で読み親しんできた宮沢賢治の作品は多い。
本著は宮賢治の作品が、過去から現代に至るまで幅広く受容され続けてきた理由について、時代背景や同時代評を用いながら考察する。戦時下における「雨ニモ負ケズ」の評価の高まり、また近年のポップカルチャーに登場する賢治作品については、特に興味深く読んだ。

宮沢賢治について、時代性という切り口から考える1冊。かつて読んだ作品を懐かしみながら、手にとってみてはいかがだろうか。

(紹介者:M・T)

■No.3■

『すごすぎる天気の図鑑

(荒木健太郎著 KADOKAWA 2021)

<所蔵館:久喜図書館 請求記号:451/スコ 児童書>

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夏になると、空が気になる機会が増える人も多いのではないだろうか。青い空に湧き立つ入道雲は、夏の風物詩の一つだ。近年ではゲリラ豪雨や線状降水帯など、命に関わる話題も多い。本書はそんな天気に関する様々なトピックについて、イラストや例え話で分かりやすく解説している。児童書ではあるが、大人でも読み応えのある内容となっている。
著者によると、坊主頭の入道雲は成長すると髪の毛が生え、別の名前の雲になるそうだ。これがどういうことなのか、ぜひ本書で確認してみてほしい。他にも天気急変の予兆となる雲や、雨が降っていない時に見られる虹など、興味深い現象を紹介している。本書を読んでから空を眺めてみると、それまでと違った景色が見えるかもしれない。

(紹介者:A・Y)


それでは、次回もお楽しみに。

2023年7月2日

こんな本あります!―久喜図書館の書棚から―

こんにちは。久喜図書館です。
このコーナーでは、所蔵する図書を図書館職員がご紹介します。

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さて、今月は...

■No.1■

『音楽の名言名句事典

(朝川博、水島昭男編著 東京堂出版 2012)

<所蔵館:久喜図書館 請求記号:762.8/オン>

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「事典」とあるが、通読すると音楽の歩みが理解しやすくなるように意図されてもいる。もちろん巻末の「人名索引」から気になるあの人の言葉だけ拾って読んでもよいし、作曲家、芸術家・思想家、演奏家、音楽の森で分けられている章ごとに読んでも楽しめる。

ブラームスがドヴォルザークの才能を認めた一言や、指揮者カール・ベームが楽員の誰かがトチッた時の自分の行動の変化について語った一言。モーツァルトのばく大な借金を彼の死後返済したのは悪女と言われていた妻だったこと、世界初のレコードに録音された歌は「メリーちゃんと子羊」だったことなど興味は尽きない。

編著者の二人は、音楽之友社で雑誌などの編集に長年携わっていた。島崎藤村の「椰子の実」に関する解説は次のような言葉で結ばれている。「やがて「名も知らぬ遠き島」へ「椰子の実」ならぬ兵士が多数送られることになる。」選ばれた言葉やその解説から編著者の想いも感じ取れる一冊である。

(紹介者:関 信子)

■No.2■

『舞台と客席の近接学 ライブを支配する距離の法則』

(野村亮太著 dZERO 2021.2)

<所蔵館:久喜図書館 請求記号:771/フタ>

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ここ数年ほど、人と人との距離がクローズアップされたことは歴史上珍しいのではないか。小劇場での観劇が好きだが、とりわけ劇場のような場所では、ここ数年主催者側が客席と舞台の距離、客席同士の距離などにかつてないほどの細心の注意を払う日々が続いていたと感じていた。それゆえ、タイトルに惹かれて手に取った一冊である。

本書は、なぜ舞台と客席は距離があるのか、なぜ客席同士は密接しているのかといった、劇場という場において半ば当たり前のことを検証し、それらがもたらすものについて、「劇場認知科学」なる学問を標榜し、その立場から実証実験に基づいて論じている。例えば、同じエンターテインメントを楽しむために会場に足を運ぶ人たちが、無意識のうちにどのような共同作業を行い、どのような感情を共有するのかといった点について解明している。読んでいる途中に感じた疑問が、読み進めるとともに解決していくという構成が心憎い。

劇場という空間の分析が、生で見る楽しさの意味を明確にする一方で、劇場に来なくてもあたかも劇場にいるかのような感覚を得ることは可能であるとする、未来のエンタメの形をも提示する1冊。

(紹介者:T.A)

■No.3■

『ザリガニ にほん・アメリカ・ウチダ(岩波科学ライブラリー162)』

(川井唯史著 岩波書店 2009.9)

<所蔵館:久喜図書館 請求記号:485.3/サリ>

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子どものころ、田んぼや用水路でよく釣ったザリガニ。実は日本にいるザリガニは3種類しかおらず、唯一の在来種であるニホンザリガニは北海道と東北の一部に分布するのみとなっている。では普段見かけるザリガニはいったいいつから日本にいるのか。

本書では、日本人とザリガニの歴史を辿るとともに、種類ごとの生態やその生活史に触れる。「万病に効く薬」として貴重だった江戸時代、大正天皇即位の晩餐会に「宮廷スープ」として提供されるなど、知らなかったザリガニの一面が見えてくる。

なお、6月1日よりアメリカザリガニは条件付特定外来生物に指定されたため、釣る・飼うは問題ないが、それを野外に放流したり、逃がしたりすることは法律で禁止となった。寿命を迎えるまで飼育することが難しい方、責任をもって飼うことのできる譲渡先が探せない方は、ザリガニはもう釣らないことをお勧めする。

(紹介者:F.T)


それでは、次回もお楽しみに。

2023年5月19日

こんな本あります!―久喜図書館の書棚から―

こんにちは。久喜図書館です。
このコーナーでは、所蔵する図書を図書館職員がご紹介します。

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さて、今月は...

■No.1■

『ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情

(佐藤直樹,フェリックス・クレマー/編 日本経済新聞社 2008)

<所蔵館:久喜図書館 請求記号:D/723.3895/ウイ>

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寡黙で誠実、会えば安心できる懐かしい友人。ハマスホイの絵画は、一言でいえばそんな印象だ。

19世紀末から20世紀にかけ、画家たちはパリに集い、前衛絵画が咲き乱れる。一方、ハマスホイは北のコペンハーゲンの地にあって、恐らくは何の変哲もない旧市街の自室を執拗に描き続けた。少しくすんだ色調の静謐な作品を見ていると、彼の画家仲間の、どこかきらびやかで饒舌な作品と一線を画していることがよくわかる。

本書は、2008年に国立西洋美術館で開催された、ヴィルヘルム・ハンマースホイ(ハマスホイ)の展覧会図録である。佐藤とクレマーの共同企画により、ロンドンに続き日本初となる展覧会が実現した。この後2020年に開催される「ハマスホイとデンマーク絵画」展は、本書解説者の一人、萬屋健司が企画することになる。

当館では、こうした入手しにくい展覧会図録を数多く所蔵している。

風薫る季節に、是非あなたの一冊を見つけていただきたい。

(紹介者:蓮見 博)

■No.2■

『 世界に広がる俳句(角川学芸ブックス)』(内田園生/著 角川学芸出版 2005)

<所蔵館:久喜図書館 請求記号:911.304/ウチ026>

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最近、若者を中心にSNSを利用した短歌や俳句がブームになっているらしい。本書は俳句を愛する元外交官がその海外経験を基に俳句の国際化について熱く語った本である。

幕末・明治期の当初、俳句(俳諧)は外国人に文学(詩)と認められていなかった。その後、1905年に外国人による世界最初のハイカイ集が出版され、以来今や愛好家は五大州に及び、十数ヶ国でハイク協会が設立されて相互の交流を深めている。

ハイクでは言語の壁を乗り越え、その国・地域の持つ気候・風土、歴史、文化が見事に表現されており、俳句の精神は各国に受け継がれている。著者は、ハイクの拡がりは単なる日本文化の輸出にとどまらず、世界の文化をより豊かにするものだ、と述べる。

近年、多くの外国人が日本を訪れるようになった。全国各地の風光明媚な自然や神社仏閣などの伝統文化に触れ、もしかしたら俳句もひとひねりしているかもしれない。

(紹介者:立花 浩美)

■No.3■

『誕生日の子どもたち』(トルーマン・カポーティ/著 村上春樹/訳 文藝春秋 2002)

<所蔵館:久喜図書館 請求記号:933.7/カホ702>

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カポーティの短編作品が好きだ。この本には、私が一番好きな『クリスマスの思い出』を含む6編の作品が収められている。

『クリスマスの思い出』は、7歳の「僕」とその親友である60代のいとこのクリスマスにまつわる物語だ。二人は貯めてきた小銭を使って材料を揃え、「大切な友人」(ほぼ見知らぬ人やなんと大統領も含まれる)に贈るための30個にも及ぶフルーツケーキを焼く。物語の中でも特に好きなのが、材料に欠かせないウィスキーを密売者にもらいにいくくだりと、大人たちに怒られて泣く親友の老女を「僕」が慰めるシーンだ。「私が泣くのは大人になりすぎたからだよ(中略)年とって変てこだからだよ」「変てこなもんか。面白いだけだよ。(後略)」牧歌的なストーリーとは裏腹に、彼らの置かれる境遇の切なさがもの悲しく、だからこそ心に響く。幸せで温かい、でも一方でとても切ない。

無垢と美しさと悲しさと残酷さと・・・カポーティの魅力が存分に詰まった作品集である。

(紹介者:吉田 奈緒子)


それでは、次回もお楽しみに。