資料紹介
2024年11月14日
こんな本あります!―久喜図書館の書棚から―
こんにちは。久喜図書館です。
このコーナーでは、所蔵する図書を図書館職員がご紹介します。

さて、今月は...
■No.1■
『八月の御所グラウンド』 (万城目学著 文藝春秋 2023)
<所蔵館:久喜図書館 913.6/マキ030 >

万城目学(まきめまなぶ)が第170回直木三十五賞を受賞した青春小説。本には2作品が収められているが、どちらもストーリーがコミカルで読みやすく、登場人物が個性的で分かりやすい。「こういう人っているよな」と納得できる。そして、時折笑いを誘うセリフがあり、とにかく面白く読み進めることができる。
こんな風に読みやすい小説なのだが、絶対「ありえない事」が起きる。そして「ありえない事」が、ストーリーの展開に重要な要素となっている。京都が生んだ出会いと奇跡?こんな普通でないことを違和感なく書けるのが、万城目学の世界だ。
実は、表題作もよいが、もう一つ収録されている短編もよい。師走の都大路を走る女子高校生達が主人公なのだが、実に個々の感情描写がうまい。ちょっと感動してしまった。
ネットの文学のみでリアルな本にあまり関心のなかった若い人にぜひ読んでほしい。ただ、本に親しんできた高齢者などにとってもこれは面白い。何せ「ありえない事」が大いにノスタルジーなのだ。
みなさんも、「ありえない事」をぜひ確認してみませんか。
(紹介者:S・S)
■No.2■
『ギャンブル依存症』 (田中紀子著 KADOKAWA 2015)
<所蔵館:久喜図書館 493.74/キャ>

著名人の賭博スキャンダルがマスコミを騒がせている。莫大な借金額に驚くが、なぜ?という疑問に答えてくれる報道は目にしない。
実は日本は隠れたギャンブル大国。
賭博は違法にもかかわらず、パチンコ/競馬など公営競技/くじ等は例外とされ日常的にギャンブルに触れることができる。
「病的ギャンブラー」は成人全体の推定20人に1人。諸外国に比べ「衝撃的なほど多い」という。
依存症は脳の機能的な障害に至る病気。発症すれば意思や根性ではやめられず、正常な思考回路も働かなくなる。
家族や自身も依存症経験者で、支援組織を立ち上げている著者は、犯罪にまで至った具体的な事例から、動機、背景、回復への道筋などを解説。具体的で読みやすい入門書となっている。
日常に潜む恐ろしい落とし穴にはまらないため、誰もが知っておきたい情報である。緊急課題として社会全体で対策に取り組むべき、という提案にも深く頷ける。
(紹介者:M・K)
■No.3■
『庭仕事の真髄』 (スー・スチュアート・スミス著 和田佐規子訳 築地書館 2021)
<所蔵館:久喜図書館 494.78/ニワ >

ガーデニングが心を病んだ人たちの回復に寄与するという、「園芸療法」の効果について書かれた本である。
筆者はイギリスの精神科医、心理療法士であり、貧困地区のコミュニティ、刑務所、病院、戦争中の塹壕などにおいて庭仕事が人の心に変化をもたらす実例を数多く挙げる。著者自身の庭づくりの体験からも、庭仕事のどのような部分が心の救いになったのかを具体的に示している。
ガーデニングが心を癒してくれる要因として、土や植物の感触を楽しむことや、花の美しさ・香り、育てた作物の味を楽しむといった、ガーデニングを通して五感に受ける刺激、試行錯誤して種から花や実を育てるという感動、屋外で行う作業でありながら誰とも関わらず一人で没頭できること、反対に庭づくりを通して他人と協力して作業ができること、などと様々な理由を挙げている。
園芸療法について知るだけでなく、ガーデニングの魅力を再発見するという意味でも楽しむことができる一冊である。
(紹介者:K・M)
それでは、次回もお楽しみに。
2024年10月2日
こんな本あります!―久喜図書館の書棚から―
こんにちは。久喜図書館です。
このコーナーでは、所蔵する図書を図書館職員がご紹介します。

さて、今月は...
■No.1■
『カラヴァッジョの秘密』
(コスタンティーノ・ドラッツィオ著 上野真弓訳 河出書房新社 2017)
<所蔵館:久喜図書館 723.37/カラ>

表紙にご注目いただきたい。暗い背景から「聖マタイと天使」がぼうっと浮かび上がっている。17世紀に活躍したミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョの作品である。ローマの聖堂で実際にこの絵と対峙した時、強い光と影のコントラストと確かな写実性にその場に釘付けになった。
本書は、画家カラヴァッジョの生涯を、イタリア人美術キュレーターが豊富な歴史考証を元に、美術史初心者にもやさしい語り口で記している。
「喧嘩っ早く荒っぽい」が、画壇の批判にさらされようとストイックに新たな画法を追求したカラヴァッジョ。「バロックの幕を開けた」といわれる彼の足跡を、多くの作品写真とともに辿ってみよう。
(紹介者:S・I)
■No.2■
『小笠原諸島の混合言語の歴史と構造』
(ダニエル・ロング著 ひつじ書房 2018)
<所蔵館:久喜図書館 838/オカ>

日本語方言を専門とするアメリカ人研究者が日本語で著した大作。小笠原諸島に最初に住みついたのはポリネシア・ミクロネシア系と欧米系の人たちだという。ここにルーツを持つ島民が仲間内で使用する、日本語に英語を混ぜた独自の言語を研究したもの。またそれだけではなく、時代背景として小笠原諸島のあまり知られていない歴史や文化の変容、日本語方言との共通性と相違、入植者の家族史などが壮大なスパンで丹念に書かれているので、あたかも上質な歴史ドキュメンタリーのごとく読むことができる。
読了後、私には謎が一つ残った。それは・・・。
(紹介者:橋の下のトロル)
■No.3■
『イルカみたいに生きてみよう』
(小原田泰久著 大和書房 1997)
<所蔵館:久喜図書館 489.6/イル>

海を優雅に泳いだり水族館で華麗にショーを行ったりするイルカの姿を見て、イルカのように生きたいと思ったことがある人はどれぐらいいるだろうか。のんびりくつろぐ猫や無邪気に走り回る犬と比べると、イルカの生き方をイメージするのは難しい。
本書では、オーストラリアやバハマでイルカと出会い「無理せず、楽しく、いつもニコニコと」をモットーに生きる著者が、イルカが教えてくれた楽しく生きる方法を紹介している。悲しい気分の乗り越え方やどうしたら前向きに生きられるのか、イルカのようにのんびり楽に生きるには、といったことがイルカの生き方をとおして語られる。表紙や挿絵にいるイルカたちも可愛らしく、読む人の心を癒してくれる。
人間の世界に疲れイルカみたいに生きてみようと思ったときに、読んでみるかとこの本を手に取ってほしい。イルカはいるかと問いかけなくても、あなたの心にきっと寄り添ってくれるだろう。
(紹介者:小柳 直士)
それでは、次回もお楽しみに。
2024年8月23日
過去の新聞を読んでみよう!
こんにちは。久喜図書館の新聞・雑誌担当です。
・「自分が生まれた日の新聞を読んでみたい!」
・「○○に関する新聞記事を探したい!」
・「自分の名前が載った記事をもう一度確認したい!」
など、過去の新聞を読みたいと思ったことはありませんか?
そんな時は図書館の資料が役に立ちます!
今回は久喜図書館で所蔵している新聞に関する資料と利用方法を紹介します。
新聞原紙
通常の新聞です。タイトルにもよりますが、およそ1~5年分の原紙を保存しています。
当月分(タイトルにより先月分も)は閲覧室にあります。表に出ていない分はカウンターまでお声がけください。

縮刷版
実際の紙面を縮小・収録した資料です。主に冊子体や、DVD-ROMのディスク体の資料が発行されています。冊子体はA4サイズ程度と文字も小さくなっているので、読むにはルーペが必要になることが多いです。その日の実際の紙面全体を確認することができます。ただし、全国紙の縮刷版に掲載される地方版は東京版になります。
毎月発行されており、刊行月のおよそ2か月後には縮刷版で読むことができます。

マイクロフィルム
縮刷版と同様に、実際の紙面が縮小して写されています。縮刷版では所蔵していない昔の新聞を確認することができます。なんと、明治時代の新聞も読むことができます!



このようなロール状になっており、小さすぎてそのままでは利用できません。館内の専用リーダーで映し出して読みます。
データベース等
久喜図書館では朝日新聞の記事を検索・閲覧できる「朝日新聞クロスサーチ」と、読売新聞の記事タイトルを調べられる「読売新聞DVD-ROM」を利用いただけます。毎日新聞の記事は職員が代わりに調査します。
キーワード検索が可能なので、読みたい記事の日付がはっきりしていない方にもオススメです。また、データベースでは各地方版の記事も検索できます。

今回紹介した資料は一部を除いて、書庫に保管しています。
またタイトルによって所蔵している時期や資料の種類は異なるため、お探しの際はカウンター職員までお気軽にお声がけください。
2024年8月2日
こんな本あります!―久喜図書館の書棚から―
こんにちは。久喜図書館です。
このコーナーでは、所蔵する図書を図書館職員がご紹介します。
さて、今月は...
■No.1■
『『竹取物語』から「かぐや姫」へ:物語の誕生と継承』
(斉藤みか著 東京堂出版 2020)
<所蔵館:久喜図書館 請求記号:913.31/サイ122>

日本最古の物語とされる『竹取物語』。中学校の国語の教科書に採録されていることから、その冒頭部分を知っている人は多いだろう。本書は、現代人に取っても身近な古典文学作品の一つである『竹取物語』が人々にどのように受け継がれ受容されてきたのか、様々な観点から考えていく。絵巻や漫画、映画等々、『竹取物語』は今もなお進化を続けている。日本最古だが最新の物語である『竹取物語』の魅力が詰まった一冊!
(紹介者:S.O)
■No.2■
『おわらない音楽 私の履歴書』
(小澤征爾著 日本経済新聞出版社 2014)
<所蔵館:久喜図書館 請求記号:762.1/オワ>

文章に滲む人柄にさえ素朴さと愛嬌を感じた。機会があれば躊躇わず飛び込む。人を頼るのが上手で、謙虚で、感謝を忘れない。なるほどこれが成功の秘訣か、と思ったが、著者は成功するためにそうしていたわけではない。ただ大好きな音楽をずっと続けたいという一心である。その飾らなさもまた小澤征爾という人間の魅力だった。
本書は指揮者・小澤征爾の自伝である。冒頭で「指揮者という商売は、自分一人ではどんな音だって出せない。(略)宿命的に人の力がいるのだ」とあるとおり、本書には家族をはじめとして多くの人物が登場する。
好きなことをまっすぐ追い求める姿は何歳になっても美しい。最後まで音楽への探求心に溢れた本書は、挑戦しようとする読者の背中を優しく支える一冊になることと思う。
(紹介者:R.M)
■No.3■
『和菓子おもしろ百珍』
(中山圭子著 淡交社 2001)
<所蔵館:久喜図書館 請求記号:588.36/ワカ>

季節感や花鳥風月のさまざまなモチーフが表現される和菓子。目で楽しみ、舌で味わい、お茶と一緒に味わう。心和むひとときをもつことができる。
本書では今でも多くの人々から愛され、親しまれている菓子だけではなく、消滅したものも紹介されている。消滅した和菓子には、名称を知らないものが多い。しかし、和菓子に込められた人々の気持ちや、和菓子への慈しみが伝わる作者の文章に導かれながら、和菓子=低カロリーのイメージを覆す「腹太餅」や、スキャンダルを元にした「和国餅」など、当時の人々のユーモアにくすっとさせられたり、商魂の逞しさに驚かされるお菓子にも出会うことができる。
材料も多岐にわたることから、現代に復活するものもあるのでないか。甘いものが好きな私は、密かに期待している。
(紹介者:A.M)
それでは、次回もお楽しみに。
2024年7月3日
こんな本あります!―久喜図書館の書棚から―
こんにちは。久喜図書館です。
このコーナーでは、所蔵する図書を図書館職員がご紹介します。

さて、今月は...
■No.1■
『ペットのピコが急にしゃべりだして、文章の書き方を教えてきたんだけど!?』
(こな・つむり著 KADOKAWA 2024)
<所蔵館:久喜図書館 請求記号:816/ヘツ>

子どもの頃、読書感想文が苦手で、好きな本でも「思い」を言葉にできなかった。そんな人は多いかもしれない。本書は小学5年生のふみがペットの文鳥ピコに教わりながら読書感想文を書いていく筋立てで、文章の書き方が学べるノウハウ本だ。目を引く装丁とインパクト大のタイトルで手にとりたい気にさせる。著者は、書店員として装飾などを手掛け、現在は読書感想文の講座を行うなどフリーのPOP職人だ。「読書感想文は本選びが5割」と著者はいう。好きなジャンルの本を選び、心が動いたところに付箋を貼りながら読む。自分にインタビューして、頭の中の感想を正確に言語化する。まず下書き、原稿用紙のルールは守る、最後の見直しは忘れずなど、ポイントを押さえつつ文章力アップのヒントがつまっている。自分の気持ちを整理して言葉にすることは、大人になっても必要不可欠なことだ。子どもだけでなく文章を書くことに苦手意識のある大人に読んでもらいたい。
(紹介者:神原陽子)
■No.2■
『「演出家の仕事』
(栗山民也著 岩波書店 2007)
<所蔵館:久喜図書館 請求記号:771.6/エン>

舞台という空間で繰り広げられる物語は、小説やテレビドラマと異なる独特の世界観を感じる。その場で演じるが故の空気を伝う振動や、出演者が全身を使って表現する役柄の雰囲気を受け取っているからだろう。
本書は演劇を形作る演出家に焦点を当て、制作に関わるすべての人々が一体となって物語の世界を作り上げるまでの、隠された現実が描かれている。著者は、演出家に必要となるものは「見ることと聞くこと」だと語っている。一見普通のことであるが、何かを表現するという行為に対してここまで的確な助言はないと感じられるため、ぜひ手に取ってその真意を確かめてほしい。舞台に親しみのない人にこそ薦めたい一冊。
(紹介者:C.K)
■No.3■
『探偵小説の社会学』
(内田隆三著 角川書店 2001)
<所蔵館:久喜図書館 請求記号:901.3/ウチ019>

シャーロック・ホームズ、エルキュール・ポアロ、明智小五郎、これらの名前を一度は聞いたことはないだろうか?そう、小説に登場する探偵である。
およそ探偵が事件を推理し、解決するというストーリーは、推理もののひとつとしてよくあるが、探偵が活躍する小説はいつから登場したのか。各時代で転換点となった作品を例に、社会情勢を交えつつ「探偵小説」の成立に必要な要素や、構造面などから解き明かしていく構成は、さながら探偵のようで面白い。筆者曰く、探偵小説の登場は、近代社会の成立と深くかかわっており、「探偵とは近代性を生きる人間の不安に通底する現象」だという。また探偵行為自体は、他人の秘密を嗅ぎ回る卑劣な行為とも捉えることができる。しかし行為の行き先が犯罪(=悪)の暴露となる時、正義と悪の対立構造が生まれ、読み手の認識は一変するらしい。
我々は探偵小説の何に惹かれて没頭するのか、筆者と一緒に解決してはいかがだろうか。
(紹介者:A.S)
それでは、次回もお楽しみに。
