資料紹介
2024年3月23日
こんな本あります!―久喜図書館の書棚から―
こんにちは。久喜図書館です。
このコーナーでは、所蔵する図書を図書館職員がご紹介します。
さて、今月は...
■No.1■
『源氏供養 上巻・下巻』
(橋本治著 中央公論社(中公文庫)1996)
<所蔵館:久喜図書館 B913.36/ゲ>
高校の授業で「源氏物語」に触れて以来、貴公子の女性遍歴には興味がない、と敬遠してきた。しかしあらゆる日本文化に引用されるこの物語。ストーリーを知る必要に迫られ、谷崎でも与謝野晶子でもなく橋本治が訳した「窯変源氏物語」を手に取ってみた。当時の世相や身分制度の丁寧な解説あり、現代にも通じる心理描写あり。「源氏」の面白さに目覚める体験となった。
この「源氏供養」は「古典は自分達とはあまり関係ない高級で難解な文化遺産」と思っている日本人に向けて「源氏物語が面白いのはそこに自分がいるから」と伝えたい橋本が書いた解説本である。女がじっと家の中に閉じ込められ男の訪れを待つしかなかった時代、紫式部は「女も人だ」と言いたかった。中流貴族の娘である紫式部の立場と思いとは。平安時代とは。千年を経ても変わらぬ男女の心とは。大河ドラマ「光る君へ」をより深く楽しみたい人にもお薦め。
(紹介者:M.K)
■No.2■
『奇跡を呼んだ猫たちのおとぎ話』
(ジョン・リチャード・スティーブンス編 池田雅之訳 草思社 1999)
<所蔵館:久喜図書館 908.38/ステ>
神秘的で不思議な生き物に描かれた猫。本書では、そんなおとぎ話の猫に心惹かれた作者が世界中から集めた猫の物語を紹介している。例えば「長靴をはいた猫」の長靴をはいていない頃のお話、アイルランドの伝説が起源と見られる、全ての猫を支配していた「猫の王様」が登場する幾つかのお話など。
賢く不思議な猫ばかりだが、初めて読むお話の中でも、どこか出会ったことのある様なキャラクターを持つ懐かしい猫と再会する。時代を超えて愛される猫の魅力を知ることができる。
(紹介者:N.M)
■No.3■
『台湾における「日本」の過去と現在 糖業移民村を視座として』
(野口英佑著 ゆまに書房 2023)
<所蔵館:久喜図書館 521.8/タイ>
台湾といえば何か。タピオカ、九份、親日...漠然としたものしか浮かばない人に対して、日本人が向き合うべきものは何かを詳述したのが本書である。日本統治時代に台湾で建てられた神社が再建された例から、台湾の中で「日本」がどう捉えられてきたかを追う。
台湾を一括りに見ず、地域や民族を丁寧に捉えている点がこの本の魅力である。政治的事情からも関心が高まる台湾を正確に知りたいと思う人にぜひ贈りたい1冊。
(紹介者:白桃)
それでは、次回もお楽しみに。
2024年2月27日
雑誌の付録いろいろ
こんにちは。久喜図書館の新聞・雑誌担当です。
日々雑誌の受入をしていると、雑誌の付録にもいろいろあるなと感じます。
埼玉県立図書館で受入を行う雑誌は原則永年保存とし、その付録もなるべく廃棄せずに保存しています。
今回はそんな付録にどんなものがあるか、写真とともにご紹介します。
雑誌に貼り付ける付録
雑誌の受入を行う際は、原則として雑誌本体に付録を貼り付けることとなっています。
こうすることで貸出を行う際に、雑誌とともに付録の内容も確認することができます。
『碁ワールド』は付録がついていることが多い月刊誌で、末尾に冊子を付しています。
『碁ワールド』の所蔵確認・予約はこちらから↓
https://www.lib.pref.saitama.jp/winj/opac/switch-detail-iccap.do?bibid=1200000614
雑誌に貼り付けることができない付録
原則通り、付録を雑誌に貼り付けられない場合があります。
その場合は書庫に保管をしています。
雑誌本体には付録を書庫に別置する旨をシールで表示しています。
別置した付録は貸出できませんが、館内でご覧になることはできます。
写真の『ゴルフトゥデイ』2022年11月号の所蔵情報・予約はこちら↓
https://www.lib.pref.saitama.jp/winj/opac/switch-detail-iccap.do?bibid=2298057060
例えば『サイクルスポーツ』2023年5月号には、自転車のメンテナンスブラシが付いており、書庫に別置しています。
写真の『サイクルスポーツ』2023年5月号の所蔵情報・予約はこちら↓
https://www.lib.pref.saitama.jp/winj/opac/switch-detail-iccap.do?bibid=2298063879
『サイクルスポーツ』の付録は本体に付けられないことが多く、書庫には歴年の付録が蓄積されています。
先日は公式SNSでもその様子を発信しましたので、まだ見ていないという方はこちらからご覧ください。
(https://twitter.com/saitamaken_lib/status/1756940413712396444)
おわりに
雑誌の付録についていくつか事例を紹介しましたが、いかがだったでしょうか。雑誌によっていろいろな付録があることを改めて認識できたのではないでしょうか。
埼玉県立図書館で受入を行う雑誌は、受入ルートに書店等からの購入、団体や個人からの寄贈、県内市町村立図書館等からの移管という3つのルートがあります。購入雑誌はもちろんのこと、寄贈、移管雑誌についてもなるべく付録がある状態で保存できるように収集しています。
雑誌は発行された時代の世相を表す資料として非常に貴重です。例えば、少し前の時代の雑誌にはフロッピーディスクがついていることもありましたが、今ではフロッピーディスクを読み取る機械を持っている人は少ないかと思います。
『I/O = アイオー』の所蔵確認・予約はこちらから↓
https://www.lib.pref.saitama.jp/winj/opac/switch-detail-iccap.do?bibid=1200000643
雑誌本体の装丁や記事はもちろんのこと、付録にも着目して資料利用をしてみてはいかがでしょうか。今は当たり前のものも、20年30年と時が経過して確認してみると、「あの時こんなものもあったな」と思えるようになると思います。発行から2年以内の雑誌及びその雑誌本体に付された付録以外は、資料保存のため館内利用に限っております。貸出ができない資料も職員にお声がけいただき、ご覧いただければと思います。
2024年2月6日
こんな本あります!―久喜図書館の書棚から―
こんにちは。久喜図書館です。
このコーナーでは、所蔵する図書を図書館職員がご紹介します。
さて、今月は...
■No.1■
『お菓子の日本語文化史』
(前田富祺著 和泉書院 2023)
<所蔵館:久喜図書館 814/オカ >
私達の生活を楽しく彩ってくれるお菓子。そのお菓子を言葉の面から深堀したのがこの本である。お菓子は五十音順の項目で配列されているので、気になる項目をつまみ食いするのもよし、完食して蘊蓄を深めるのもよし。
文中に引用されている文学作品名が巻末にまとめられているので、お菓子が登場する文学作品を食してみるのも楽しいかもしれない。
表紙や口絵のイメージに比べて中身は濃厚なので、早食いせずにゆっくりと味わいたい。
(紹介者:M.O)
■No.2■
『必勝法の数学』
(徳田雄洋著 岩波書店 2017)
<所蔵館:久喜図書館 417.2/ヒツ>
ゲームに必ず勝てる方法はあるのだろうか? この本は、必勝法の研究に没頭した20世紀の科学者たちが明らかにした原理を紹介するものである。
主に扱うのは2人で対戦するタイプのゲームで、山くずしやオセロ、サッカーのPKなど、さまざまなものを数学的に解説している。読めばゲームで負けなしになれるかもしれない。
本書によると、子どもが2人のチェスチャンピオンと同時に対戦して、片方には負けない方法があるそうだ。どんな理論か気になった方は、ぜひ手に取って確かめてみてほしい。
(紹介者:T.K)
■No.3■
『百』
(色川武大著 新潮社 1982)
<所蔵館:久喜図書館 イ>
色川武大(1929-)には、阿佐田哲也名義で『麻雀放浪記』などの作品もあるが、『百』は色川武大名義の作品である。
弟の事故から始まる「連笑」、父が母を突き飛ばしたという話から始まる「百」、退役軍人だった父の老いを描いた「ぼくの猿 ぼくの猫」、「耄碌した」父を病院に入れるかどうかという「私」の葛藤が描かれる「永日」が収録されている。
表題作「百」では、老いた父親が見る幻や幻聴が、作品の終わりに置かれている。紙おむつの話など現実的な描写が続いていたはずなのに、読後には、不思議と幻想的な余韻が残る。静かで、短くて、美しい小説だと思う。
(紹介者:Y.M)
それでは、次回もお楽しみに。
2023年12月26日
こんな本あります!―久喜図書館の書棚から―
こんにちは。久喜図書館です。
このコーナーでは、所蔵する図書を図書館職員がご紹介します。
さて、今月は...
■No.1■
『ムシの考古学』
(森 勇一/著 雄山閣 2007)
<所蔵館:久喜図書館 457.8/ムシ >
遺跡から出土するのは石器や土器ばかりでない。本著では、日本各地の遺跡で発見された昆虫化石の種を特定し、その昆虫の生態から、当時の社会や生活環境を復元する。
例えば、鎌倉時代の遺跡からいくつも発見された謎のかたまり。これは土と大量の畑作害虫で構成されており、当時の人々が畑に大発生した虫を採って集めて穴に埋めて処分したのである。
昆虫化石からは、文献史料などでは分からない、当時の人々のリアルな暮らしを窺い知ることができる。
(紹介者:C・K)
■No.2■
『世界を変えた6つの「気晴らし」の物語 』
(スティーブン・ジョンソン/著 朝日新聞出版 2017)
<所蔵館:久喜図書館 502/セカ>
動物は生存のための技術向上に力を入れるが、人間はなぜかそれ以外の技術や事柄に力を入れることがある。
この本では生存には必要のないはずの人間の気晴らしが技術や産業へ与えた影響を紹介する。
例えば人間は古代より音楽を楽しむための技術を熱心に磨いた。この熱意は最初のコンピュータが作成される千年も前にはプログラミング可能な水力オルガンを作成する。また中世の女性達の服のへの気持ちが百貨店という新しい買い物スタイルを生み出していく様子を紹介する。
(紹介者: T・O)
■No.3■
『食べる西洋美術史「最後の晩餐」から読む』
(宮下規久朗/著光文社 2007)
<所蔵館:久喜図書館 702.3/タヘ>
宗教画というと近寄り難さを感じるかもしれないが、食事風景といえば印象はがらりと変わる。
著者は、ルネサンス期から近代までの西洋美術を「食」という視点から見つめ直していく。食に傾ける情熱では引けを取らないはずの日本や中国では、なぜ近代になるまで食事風景が描かれなかったのか。粗食を善としながら晩餐の光景を繰り返し描くのはなぜなのか。
西洋美術史のみならず、キリスト教文化の入門にもおすすめしたい一冊である。
(紹介者:R・M)
それでは、次回もお楽しみに。
2023年11月7日
こんな本あります!―久喜図書館の書棚から―
こんにちは。久喜図書館です。
このコーナーでは、所蔵する図書を図書館職員がご紹介します。
さて、今月は...
■No.1■
『極楽征夷大将軍』
(垣根涼介著 文藝春秋 2023)
<所蔵館:久喜図書館 913.6/カキ005 >
太平記とは異なる新たな足利尊氏を提示した、長大な歴史小説。逆に、後醍醐天皇・楠木正成・新田義貞等の誰もが知っている英雄を従来通りに描いているため、新解釈に説得力を持たせ安心感を与えている。実は戦べたな高師直と弟の足利直義の活躍と苦悩を軸に、室町幕府ができるまでを資料に基づき実に実に丹念に描いている。
この小説は、戦記物として不可能なことを成し遂げていくことを描くことで痛快性や娯楽性を求めているのではなく、人の助け合いや心の繋がりを大きなテーマにしていると考えるが、どうだろうか。
一気に読むにはやや長すぎるので、じっくり腰を据えて取り組む1冊。かっこいい足利尊氏を期待する方にはお勧めできない。(第169回直木三十五賞受賞作品)
(紹介者:バリアフリー読書推進担当)
■No.2■
『かわいい仏像 たのしい地獄絵 -素朴の造形-』
(須藤弘敏、矢島新著 PIE International 2015)
<所蔵館:久喜図書館 718.3/カワ>
仏像といえば、まず思い浮かべるのは奈良の大仏や阿修羅像だろう。だが、この本では、そういった誰もが知っている仏像をとりあげていない。仏師の手によるものではないが、東北の地で、今なお人々から慕われている民間仏を紹介している。ポケットにでも入れておきたくなってしまうような素朴でかわいい仏像だ。常に飢えや病気の苦しみにさらされていた農民たちにとって、なぜ、やさしくて、かわいいのかを説く。
後半では、死への恐怖、とりわけ地獄へ落ちるかもしれないと思っていた庶民に身近な地獄絵を紹介している。あまり恐ろしさを感じない地獄絵も民間の画工によるものだ。
写真はすべてカラーである。埋もれた美を掘り起こしたい、一方で、これらを大事に守り続けたいという著者の心が伝わる1冊である。
(紹介者:情報・地域協力担当 M.S)
■No.3■
『わたしはこうして執事になった』
(ロジーナ・ハリソン著 新井潤美監修 新井雅代訳 白水社 2016)
<所蔵館:久喜図書館 591.0233/ワタ>
日本でも近年、アニメや漫画、ドラマなどで認知されるようになった執事。19世紀のヴィクトリア朝時代のイギリスで多く活躍していたが、時代とともに下火となり、現代ではあまりなじみのない職業である。本書では、20世紀初頭から1960年代までの間に、実際に使用人として貴族のお屋敷で働いていた5人の男性それぞれの体験談がリアルに描かれている。
執事となった者は、雑用係や下男、従僕などを経て、その地位を掴んだが、誇りを持って仕事を行っていたということが窺える。従うだけではなく、時として意見を言うこともある主人とのやり取りが面白く、またお互いの信頼関係を感じることができる。
当時のイギリスの使用人たちだけではなく、貴族の内実をも垣間見ることができる貴重で興味深い資料だろう。
(紹介者:芸術・文学資料担当 S)
それでは、次回もお楽しみに。