2025年12月16日
こんな本あります!ー久喜図書館の書棚からー
こんにちは。久喜図書館です。
このコーナーでは、所蔵する図書を図書館職員がご紹介します。

さて、今月は...
■No.1■
『源氏物語 現代語訳書誌集成』 (佐藤由佳/著 新典社 2020)
<所蔵館:久喜図書館 請求記号:913.361/サト>

明治期以降に日本で刊行された『源氏物語』現代語訳の書誌をまとめたものである。
完訳、全訳、抄訳、意訳、翻案、その他に分けて紹介。与謝野晶子や角田光代など、訳者の数は延べ60人以上。各作品の書名、出版年、ページ数、解説とともに、本のサイズ、一ページ行数、一行字数が掲載されている。文字の大きさを推測することができる(本のサイズが大きくて、一ページ行数・一行字数が少なければ文字が大きいといえる)のが老眼世代には嬉しいところ。「第一部完訳編」では、各作品の「桐壺」巻冒頭部が引用されている。同じ部分をどのように訳しているか、訳者の個性を読み比べることができるのも楽しい。
京ことばで訳されたものがあったり、わかりやすさを重視して敬語・謙譲語を抑えたりしたものがあって、手に取ってみたくなる。
掲載作品の多くは図書館で読むことができる。新年最初の読書に古典文学を考えている方、作品選びのおともに本書はいかがだろうか。
(紹介者:関 信子)
■No.2■
『ケストナーの戦争日記 1941-1945』(エーリヒ・ケストナー/著 酒寄進一/訳 岩波書店 2024)
<所蔵館:久喜図書館 請求記号:945.7/ケス701>
エーリヒ・ケストナーは、『飛ぶ教室』や『エーミールと探偵たち』といった数々の名作を世に生み出したドイツの作家だ。1945年のことを記した終戦日記は随分 前に刊行されていたが、それ以前の日記と小説のアイディアがメモされている青い束見本(つかみほん)(刊行前に作る製本の見本)が近年パートナーの遺品から発見されたそうで、その日記部分を訳したものが本書にあたる。
この一面青色のシンプルな装丁は、発見された束見本を再現しているのだろう。
「決めたぞ。戦時下の日常で起きた重要なことを、きょうからひとつひとつ書き残すことにする。そういうことを忘れないために書くのだ。この戦争がどのような結末を迎えるにせよ、意図して、また意図せずに忘却され、改変され、解釈され、また再解釈されてしまう前に。」
プロパガンダに囲まれる中で、報道内容から周囲の噂話に至るまで、常に自分で分析し続けたケストナーの姿勢を見てほしい。注釈、編者解説も充実。
(紹介者:M・S)
■No.3■
『怪談・奇談』(小泉八雲/著 平川祐弘/編 講談社 1990)
<所蔵館:久喜図書館 請求記号:B933/ハ>

「耳なし芳一」「雪女」。誰もが一度は読んだことがあるだろう。そんな怪談を42編収録したラフカディオ・ハーンの短編集。
朝ドラ「ばけばけ」の冒頭でも描かれたように、実はこの本の影の功労者は妻セツだった。意外にも八雲は片言の日本語しか話せず、夫から古い伝説や怪談を聴きたいとねだられたセツは、江戸時代の説話集などを買い集めて読み聞かせる。ところが彼は「本を見る、いけません。ただあなたの話、あなたの言葉、あなたの考でなければ、いけません」と、彼女自身の言葉で語り直すよう強くねだったという。音や言葉の響きを大切にしたという八雲は、日本の「語り物文化」に通じる心を持っていたのかもしれない。平易な英文で書かれた「怪談」は英米で刊行され、八雲の他の著作とともに海外における日本文化理解に大いに貢献した。
本書は新訳を担当した研究者たちにより、原著と思われる説話の翻刻原文も30編収録。どう再話したのか、比較してみると面白い。
(紹介者:K・M)
それでは、次回もお楽しみに。
