2025年3月31日
令和6年度外国語資料普及事業「知ろう!語ろう!ベトナム文学の魅力」を開催しました(県立熊谷図書館)
資料展「Sách tiếng Việt- 本で訪れるベトナムの世界 -」
こんにちは。埼玉県立熊谷図書館の多文化サービス担当です。
皆さまは、「ベトナム文学」を読んだことはありますか?
熊谷図書館では、令和7年1月~3月にかけてベトナムに関する3つの事業を行いました。
今回のブログでは、それぞれの事業の様子をご紹介するとともに、時代ごとにいくつかベトナムの有名な文学作品をピックアップして、ご紹介します。
ひとつめの事業は、熊谷図書館の2階ロビーで開催した資料展「Sách tiếng Việt- 本で訪れるベトナムの世界 -」です。
当館ではベトナム語の資料を約300冊所蔵しています。
今回の資料展では、その中からベトナム文学作品を各時代ごとに展示したほか、ベトナム語に翻訳された日本文学や、ベトナムの歴史や文化に関する資料なども展示しました。
日本語の資料もありますので、ベトナムにご興味のある方は、ぜひ展示リストから読んでみたい本を探してみてください。
資料展「Sách tiếng Việt- 本で訪れるベトナムの世界 -」
2025年 1月 7日(火) ~ 2025年 3月 2日(日)
埼玉県立熊谷図書館 2階ロビー
- 資料展「Sách tiếng Việt- 本で訪れるベトナムの世界 -」チラシ(PDF:1519KB).pdf
- 資料展「Sách tiếng Việt- 本で訪れるベトナムの世界 -」資料展示リスト (PDF1058 KB).pdf
- 資料展「Sách tiếng Việt- 本で訪れるベトナムの世界 -」紹介ページ
令和6年度外国語資料普及事業「知ろう!語ろう!ベトナム文学の魅力」
展示と併せて令和7年2月9日(日)には、講座「知ろう!語ろう!ベトナム文学の魅力」を開催しました。
この講座では、東京大学附属図書館アジア研究図書館から田中あき氏をお招きして、フランス植民地期以降のベトナム文学について、推薦本を例示しながら、特徴や時代背景・楽しみ方などを紹介いただきました。
令和6年度外国語資料普及事業「知ろう!語ろう!ベトナム文学の魅力」
2025年2月9日(日)13:30~16:00
埼玉県立熊谷図書館 1階鑑賞室
講座の後には、参加者同士でおすすめのベトナム語図書について語り合うワークショップも開催しました。
ワークショップでは、参加者の方々が読んでみたい本や、おすすめの本について和気あいあいと話されていました。
ワークショップで話題に上がった本を以下に数冊ご紹介します。
・702.231/ヘト『ベトナム近代美術史』(二村淳子著 原書房 2021)資料コード:103370078
・523.231/ケン『建築のハノイ』(増田彰久写真 白揚社 2006)資料コード:101736742
・929.373/クエ504『つぶらな瞳』(グエン・ニャット・アィン 著 てらいんく 2004)資料コード:101489458
・『神々の時代』(ホアン・ミン・トゥオン著 東京外国語大学出版会 2016)※県立図書館未所蔵
県立図書館に所蔵のない本もありますが、ご興味のある方はぜひ読んでみてください。
また、講師の田中先生の翻訳されたベトナム文学は以下のリンクから読むことができます。
〇遠きひとの声 / カイ・フン:https://sites.google.com/view/sealit/11%E5%8F%B7
〇文学談義(一幕劇) / カイ・フン:https://sites.google.com/view/sealit/12%E5%8F%B7
〇省行政長官 / カイ・フン :https://sites.google.com/view/sealit/16%E5%8F%B7
ベトナム文学の代表作
今回のブログでは、行った展示の中から時代ごとにいくつかベトナムの有名な文学作品をピックアップして、ご紹介します。
- 阮朝(げんちょう)期
阮朝は、1802年から1945年にかけて存在したベトナム最後の王朝です。
この時代を代表するベトナムの文学作品に、19世紀前半に阮朝の文人グエン・ズーが中国の小説『金雲翹伝』を翻案し、チュノム(漢字をもとにしてつくられたベトナム独自の文字)で記した長編叙事詩『金雲翹』があります。
チュノム文学の最高峰と考えられ、ベトナムでは国民的文学作品として広く知られています。
・VIE929.37/Ngd『Truyện Kiều』(Nguyễn Du/[boi] Nhà xuất bản Văn học 2016)資料コード:103228185(日本語訳書名:金雲翹伝 著者名:グエン・ズー) - フランス植民地期
阮朝はフランスの侵攻を受け、1887年から1945年までフランスの植民地となっていました。
この時代で有名な作家は、ヴー・チョン・フンやタック・ラム、ナム・カオ、マーヴァン・カーンなどです。
この時代の文学は、フランスの影響を受けている作品も多くあります。
展示では以下の資料を紹介しています。
・VIE929.373/Vup『Số Đỏ』(Vũ Trọng Phụng/[boi] Nhà xuất bản Văn học 2018)資料コード:103228052(日本語訳書名:幸運 著者名:ヴー・チョン・フン)
ヴー・チョン・フンは20世紀初頭の有名なベトナム人作家兼ジャーナリストです。
この『幸運』という作品は、ヴー・チョン・フンの代表作で、フランスの影響により東西の文化が混在するベトナム社会をユーモラスに描いた小説です。
・VIE929.37/Thl『Hà Nội băm sáu phố phường』(Thạch Lam/[boi] Nhà xuất bản Hội nhà văn 2019)資料コード:103228136(日本語訳書名:ハノイ36区通り 著者名:タック・ラム)
タック・ラムは、20世紀初頭の有名なベトナム人作家兼評論家です。
情感豊かな短編作品で高く評価されています。
この『ハノイ36区通り』という作品は、ハノイの食文化や社会風俗を紹介したエッセイで、講座でも紹介されていました。
・VIE929.37/Nac『Sống mòn』(Nam Cao/[boi] Nhà xuất bản Văn học 2018)資料コード:103228144(日本語訳書名:生き疲れて 著者名:ナム・カオ)
・VIE929.37/Nac『Chí Phèo』Tập Truyện Ngắn Nam Cao/[boi] Nhà xuất bản Văn học 2023)資料コード:103444527(日本語訳書名:チー・フェオ 著者名:ナム・カオ)
ナム・カオは、20世紀初頭の有名なベトナム人作家です。
家庭教師をしながら知識人や農民の生活に取材した短編などを書きました。
今回の展示では、自伝的長編『生き疲れて』のベトナム語版を紹介しました。
また3階の外国語資料コーナーには、ベトナムの『阿Q正伝』と呼ばれる短編『チー・フェオ』のベトナム語版もあります。
・929.37/マ『夏の雨』(マー・ヴァン・カーン/著,加藤栄/訳 新宿書房 1992)資料コード:115361198
マーヴァン・カーンは、20世紀のベトナム人女性作家です。
ハノイを舞台に社会の現実を鋭く捉えた作品を書き続けています。
代表作の『夏の雨』は、大洪水とそれに伴う堤防の決壊をテーマに、戦後ベトナム社会の抱える様々な問題を浮き彫りにした作品です。 - ベトナム戦争期
1964年頃から1975年頃にかけて、社会主義陣営の北ベトナムと資本主義陣営の南ベトナムの間でベトナム戦争が起こりました。
戦争期を代表する作家バオ・ニンは、代表作『戦争の悲しみ』でベトナム戦争での従軍体験を元に、戦争のもたらす悲しみを描き、ヴェトナム作家協会賞受賞を受賞しています。
今回の展示では、『戦争の悲しみ』を日本語で、またその改題版『愛は戦いの彼方へ』を日本語とベトナム語で展示しています。
・929.373/ハオ501『戦争の悲しみ』(バオ・ニン/著,井川一久/訳 めるくまーる 1997)資料コード:100029537
・929.373/ハオ501『愛は戦いの彼方へ』(バオ・ニン/著,大川均/訳 遊タイム出版 1999)資料コード:100439181
・VIE929.373/Ban『Nỗi buồn chiến tranh』(Bảo Ninh/[bởi] Nhà xuất bản tre 2014)資料コード:102629623(日本語訳書名:愛は戦いの彼方へ 著者名:バオ・ニン) - ドイモイ以降
1986年12月からドイモイと呼ばれる市場経済導入を中心とした経済再建政策が進められ、ベトナムは急激な経済成長をとげます。
この時期に活躍した代表的な作家には、グエン・フイ・ティエップやズオン・トゥー・フォン、グエン・ティ・トゥー・フエなどがいます。
・VIE929.37/Ngt『Tướng về hưu』(Nguyễn Huy Thiệp/[bởi] Nhà xuất bản Văn hóa Thông 2011)資料コード:102505765(著者名:グエン・フイ・ティエップ)
・VIE929.37/Ngt『Truyện ngắn nguyễn huy thiệp』(Nguyễn Huy Thiệp/[bởi] Nhà xuất bản Văn học 2021)資料コード:103444691(著者名:グエン・フイ・ティエップ)
グエン・フイ・ティエップは、現代ベトナム文学の著名な作家です。
特に短編が評価されており、グエン・フイ・ティエップの短編は世界中の多くの国で翻訳、出版され、多くの賞を受賞しています。
展示ではグエン・フイ・ティエップの2つの短編集のベトナム語版を紹介しています。
・929.3/キ『虚構の楽園』(ズオン・トゥー・フオン/著,加藤栄/訳 段々社 1994)資料コード:116999830
ズオン・トゥー・フオンは、現代ベトナム文学の著名な女性作家です。
ベトナム戦争後詩人としてデビューし、その後小説家に転じました。
ベトナム共産党などを告発した内容のシナリオが検閲にかかり一時期は執筆を制限されていたこともありました。
『虚構の楽園』は、触れずらいネガティブなテーマとされていた1950年代の土地改革を正面から見すえた作品です。
日常生活や、食べ物、自然についても細かい描写があり、当時のベトナム様子を垣間見ることができます。
・929.373/クエ501『魔術師』(グエン・ティ・トゥー・フエ/著,加藤栄/訳 紀伊国屋書店 1997)資料コード:100050152
グエン・ティ・トゥー・フエは、現代ベトナム文学の著名な女性作家です。
日常生活や女性の暗い情念を赤裸々に描いた作品が高く評価されいます。
『魔術師』は、代表的短篇5篇を収めた短編集です。 - 2000年以降
近年人気のある作家は、グエン・ニャット・アンです。
ベトナムではグエン・ニャット・アンの作品がしばしば映画化され、いずれも人気となっています。
・929.373/クエ504『幼い頃に戻る切符をください』(グエン・ニャット・アィン/著,伊藤 宏美/訳,加藤 栄/監訳 大同生命国際文化基金 2020)資料コード:103412037
・VIE929.37/Nha『Cho tôi xin một vé đi tuối thơ』(Nguyễn Nhật Ánh/bởi Nhà xuất bản trẻ 2014)資料コード:103227641(日本語訳書名:幼い頃に戻る切符をください 著者名:グエン・ニャット・アン)
グエン・ニャット・アンは、この短編集の表題作の『幼い頃に戻る切符をください』で2010年にアセアン文学賞を受賞しました。
この表題作は、男性が子供時代の仲良し4人組の思い出を綴った作品です。
・929.37/Nga『Tôi thấy hoa vàng trên cỏ xanh』(Nguyễn Nhật Ánh/[bởi] Nhà xuất bản tre 2011)資料コード:102505740(日本語訳書名:草原に黄色い花を見つける 著者名:グエン・ニャット・アン))
ベトナムの貧しい村に生きる兄弟と、幼なじみの少女の物語『草原に黄色い花を見つける』の原作です。
この作品は映画化され、2017年に日本でも上映されています。
今回の展示では、展示していませんが、とても有名な作品です。
当館ではベトナム語の原作のみ所蔵しています。
ベトナムは、その地理的条件や歴史により、多様な文化と豊かな自然が融合した、独自の文化を育んできました。
ベトナム文学からは、そのようなベトナムの魅力と奥深さを知ることができます。
名作映画観賞会「ベトナムの風に吹かれて」
資料展、講座にちなみ、令和7年2月7日(金)の映画会では、映画「ベトナムの風に吹かれて」を上映しました。
日本語教師としてベトナムに住んでいた女性が、認知症の母をベトナムに連れて行く物語です。
当日は、たくさんの方がご来館くださり鑑賞室は満員になりました。
この映画は、久喜図書館の所蔵ですがDVDを借りることもできます。(資料コード:740037791)
2015年に公開されましたが、ベトナムの風土やほがらかな雰囲気が感じられる映画です。
ベトナムにご興味のある方はぜひ視聴してみてください。
名作映画観賞会「ベトナムの風に吹かれて」
令和7年2月7日(金) 14:00~16:00
埼玉県立熊谷図書館 1階鑑賞室
映画会 名作映画鑑賞会「ベトナムの風に吹かれて」チラシ